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青潟大学附属シリーズ・中学篇
■――あにおとうと 評議委員会初めての顔あわせ――■NEXT






 
 評議委員会が終り、結城委員長の命により一年男子を残していた。
 これから奴らをひっつれて結城委員長宅に向かうためだった。
 もちろん顧問抜き。内密の集会だ。
 
 席をばらばらにして座る時、かならず俺の後ろ、もしくは隣りにくっついてくる奴がいる。気になってはいた。顔を見てにこにこするわけでもなければ、荷物持ちするでもない。入学して一ヶ月経つか経たないかの一年坊主だった。まだ小学生そのものって感じで、人の顔が怖いといいそうタイプだ。そいつが女子だったらまだ、いろいろ考えるところもあったろうが、なにせ相手は一年坊主評議委員だ。
 俺にはまだ、そっちの趣味はない。
「どうした、立村、なんか用か」
「いいえ、ありません」
 小さい声で答え、やはり俺の隣りに黙って座っている。
 俺がこいつと同じくらいのの頃は同じ学年の男子とベーゴマで賭けごとやったりしていたもんだった。だいたい入学して二ヶ月くらい経ってからだろうな。結城委員長と女子情報を交換するようになったのは。向こうの方から声を掛けられたのであって、俺からアクションは起こしていない。
 俺が結城先輩をおびき寄せるようなフェロモンを撒き散らしていたんだろうな。
 フェロモンはまだ漂っているらしく、俺の側にはまた一匹くっついてきている。
 立村上総、一年D組の評議委員だ。
 
 一年同期に話し掛けれられては、軽く交わしている様子だった。しゃべりたくないというわけではないのだろう。いつのまにか俺の隣りに陣取っている。同じクラスには清坂美里というなかなか男受けしそうなタイプの女子がいるのだが、全く眼中にないらしい。やはり話し掛けられると小さな声で「ありがとう」とか「悪かった」とか言うだけだ。
 ──ありゃあ、友だちいねえぞ。
 俺は、そのままにして本日夜の「結城委員長企画・一年男子評議固めの盃」についての予定を組み始めた。こいつらは明日の評議委員会を担って立つ存在、いやその前に、俺のパシリとしてしっかりと働いてもらわねばなんない。それゆえ「あにおとうと」の契りを交わす儀式だ。
 ──結城先輩、あんた、悪党だよなあ。
 ──単なるアイドルおっかけ野郎じゃないって。
 黒ぶちめがねをかけているのは生身の女子を遠ざけるためとしか思えない。あれじゃあ女寄ってこないだろ。結城先輩が愛を持って見つめるのは、アイドルグループ「日本少女宮」のポスターと写真集、あとは年に一回のコンサート舞台くらいじゃないだろうか。断言する。
「立村、これから来るだろう?」
「はい、行きます」
 やはり声は小さい。男の持ち物ちゃんとついてるのか、お前、と言いたくなる。
 唇をかみ締め、嘘をつかない、主張するまなざし。野郎としては俺も嫌いじゃない。いきなりへらへらと楽しげに媚びを売る女子たちよりは、ずっといい。
「じゃあ、一年連中とまとまってろ」
「はい」
 俺に命令されたのが効いたのか、立村は少し椅子をずらして、一年連中の方にずれた。来い来いと手招きする同期連中。仲間に入れてやらなきゃなあ、て感じの気遣いだろう。
 今年の一年はみな、お人よしというか、気迫のこもった奴がいないというか。こじんまりした連中ばかりに見える。
 誰とでも仲良くできる反面、勝負を賭けたいとぶつかってきそうな奴が、いない。
 ──俺が戦いすぎたんだろうなあ。やはり。

 青潟大学附属中学は田舎ながらも一応は「エリート中学」として名が知られているる。うちの親も俺がいかに小学校時代馬鹿やってたか知っているから、ここに押し込んでおけば真人間になるであろうと、勝手に想像したに違いない。実際、面白い奴は多いし、女子も可愛い。周りが一番心配していた成績の点もなんとかクリアしている。
 ここだけの話、カンニングの方法もいろいろ考えていたんだが、なくたってなんとかなるもんだ。世の中、甘い。

 担任が、現在評議委員会の顧問をしている駒方先生だったっていうのも、俺の場合プラスに働いたんだろう。いわゆる放任主義だ。よけいなことはなーんも言わない。こいつ何も考えてないんじゃないかといわんばかりの無関心ぶり。なんだが結構見ているところは見ていて、
「里希、お前も毎日、身体だけは大事にしろよ」
 三日間とある事情で寝不足にて学校に来た時のことだ。去年の十月くらいだったろうか。俺も遊びまくっていた頃だったし、いつ公立中学に送り返されても文句は言えなかっただろう。
 やることはやってるが「他人様に迷惑はかけていない」ことをわかってくれたらしい我が師に感謝だ。

 部活なんてうっとおしいもんなんか最初からやる気はなかった。学校よりもおんもでたむろいたかった。評議委員に選ばれたのも俺の顔が目立っただけだ。情熱かけらもなし。
 その俺がなぜか次期評議委員長の内定をいただき、青大附中の未来を担ってしまった。
 予期せぬ展開。笑えるもんだ。

「ほんさと、ちょっと来い」
「へえへえ、結城のだんな」
 俺のことを唯一、「ほんさと」と呼ぶのはこのお方、結城穂積(ゆうきほずみ)先輩もとい委員長さまだ。この一、鼻の先でうごめいている女子たちには関心皆無、ブラウン管の中であはんうふんしているお嬢様たちにのみ男の反応を示すという。男の楽しみを感じないとか。もったいない。
「今夜の『かための盃』用の酒なんだが、やっぱりビールを用意するか?」
「まだあいつら一年坊主ですし、アルコールの強いのはあとあとまずいんじゃないですかい」
「ごもっともだ」
 ふ、ふ、ふ。隠微な笑いを漏らす結城先輩。「坊ちゃん道楽」とクラスの連中からは軽蔑されていると噂は聞いている。まあ俺は、この人の性格が嫌いじゃない。
「俺の部屋には誰も来るなと家の奴には命令している。かための儀式は無事、終わるだろうな」
「たぶん結城先輩の部屋に入ったとたん、みな卒倒寸前になるでしょうなあ。想像すると楽しすぎますぜ」
「まだまだ、免疫がないだろうしな」
 四人、一年男子連中がひっそりとおしゃべりしている様子をそっとのぞいてみた。俺にひっついていた立村も、無事なじんでいる様子だ。他の三名も目立つところはないにせよ、あくのないしゃべりをしている。俺にとっては非常に使い勝手よさそうな手駒だ。
「さてほんさとよ」
「なんですかい、だんな」
「お前にしてはめずらしいなあ。女子の方には全く関心持たないとは」
「俺は基本としてですねえ、学内の女子には手を出さない主義なんですぜ。ふたりいたらもう、十分って奴ですか」
「生身の相手がふたり、確かにな」
 また、ふたりでひ、ひ、ひと歯の間から笑いを漏らした。ひとりはとある事業家の息子、もう一人は仕事の関係で両親が海外でうろうろしていると来た。たぶん、端から見たらふつうじゃないだろう。俺と結城先輩はふつうじゃないところで繋がれたんだろう。人間の関係ってそんなもんだ。
 今回「かための盃」を交わすのは、一年男子四人のみだ。女子たち相手には誤解を招くのを避けたい。レディーファーストだ。
 俺も外見は中学二年になったばかしのガキだ。先生たちの前ではその辺も演じるように心がけていた。
「この世の中は演技だな、ほんさと」
「まさに、その通り」
 仮面を使い分けてひたすら世の中をかいくぐっていくのが俺たちのつとめ。可愛がってくれる駒方先生には悪いが、俺たちは所詮、そういう奴なんだ。

 俺は結城委員長と打ち合わせて、教室を変えることにした。俺の本拠地ま二年A組に一年評議四人を引き連れていった。後ろから悠々と結城先輩がついてきた。
 この二年A組は一年からの持ち上がりだ。まとまりはよくもなければ悪くもない。一年時代はいざこざがないわけでもなかったが、すでに俺様の力で制圧済みだ。さすがに俺に逆らおうとする奴は男女ともにいない。ただ、
「本条に近づくと自動的に妊娠するかもしれないぞ」
と、クラスの女子たちに言い含めている奴がいる。
 ──俺にも選ぶ権利があるってんだ。
 
 四月の段階で、青大附中では委員会活動のいかなるかについて、一年生にレクチャーする慣わしとなっていた。青大附中の場合、「委員会」=「部活」というニュアンスが非常に強い。運動部文化部ともに活気がない、コンクールや中体連で試合に出ても一回戦で負けてお帰りだ。なあに、大抵やりたいことは委員会でそれぞれ賄えてしまうものだ。
 運動部関係はさすがに難しいが、文化部だったらもうお手の物。演劇関係だったら評議委員会にまかせとけ、美術関係だったら規律委員会、将来医者になりたいとか看護婦をめざすんだったらためらうことなく保健委員会へ。また音楽委員会、図書委員会などはもう言うに及ばず。文化部活力なしとため息つくよりも、もっと委員会の派手な活躍を見てほしいと俺は思う。
 そうだ、ここは隠れ演劇部、評議委員会なのさ。
 
 今のところ一年坊主たちは、青大附中の評議委員会を「学級委員の集まり」としか認識していないだろう。もしくは「生徒会長よりも権力をもち、先生たちからも一目置かれていて、ある意味治外法権」という場所だとも聞いているかもしれない。実際それは当たっている。結城委員長の隠れた技とコネにもよる。
 だが、あれは演技だ。
 評議委員は、演技ができないと、生きていけないのだ。知ってるか?

 一年連中四人は肩を寄せ合ってひそひそ話を続けている。本当だったら三年、二年の野郎全員が揃うところだったのだが、わびしい、奴らはみな塾があるということで姿を消してしまった。なにも黙ってりゃ附属高校に進学できるんだからほおっておきゃあいいのにと思うんだが、なかなかそうもいかないらしい。塾に行ってないのが俺と結城委員長くらいだっていうのも笑える。
 そんなうざいところこもってるんだったら、もっと社会勉強しに出かけた方がいいと俺は思う。結城委員長と意気投合した一点だ。

「お前ら、塾に行ってないのかよ」
 俺が一声かけると、四人とも頷いた。
「無理に行くことないって言われてますし」
「学校で十分です」
「お金ないんですよ、うちんとこ」
 それぞれ子どもなことを言っておる。最後に、
「家が遠いから……」
 ぼそっとつぶやいたのは立村だった。知っている。こいつのうちは品山だ。毎日朝七時出発という話も聞いたことがある。どこぞの国では朝六時にうちを出るのも珍しくないらしいが、青潟では同情に値する。
「ふうん、じゃあ毎日、うちと学校の往復か」
 大真面目にこくっと頷いた。目だけが俺の方を向いて、にこりともしない。
「まあ今日は大丈夫だ、立村。結城委員長のうちは、品山からそう遠くない、ですね」
「本日のところはな」
 意味ありげな笑いを、口元の筋肉で表現する結城先輩。この人の家庭は俺の理解範囲を大きく超えている。別にそれはいい。親の別宅を借り切ってこっそりパーティーやろうが全くかまわないらしい。いったいこの人の親は何考えてるんだろうか。そのおこぼれをもらえる俺としては、そんなぶっこわれたお父上に大共感するのだが。
「てなわけで本日はいつもの『宮殿』だ。覚悟しとけよ」
 四人とも不安そうに顔を見合わせている。そりゃそうだ。俺の調べた範囲内だと、結城委員長以上の財政豊かな家庭はない。みな、こつこつと月謝袋を持って通っている。そんな奴だ。
「ま、緊張すんなよ。青大附中の評議委員会はな、絶対に」
 さすがに一年たちのびびり方を心配したのか、結城委員長はひとりひとりに話し掛けながら、続けた。
「しごきはしないし、いじめもしない。ただ、やりたいことをやる方法をとことん叩き込むだけだってな」
 
 ──やりたいことをやる方法、か。
 ──結城さん、まさにあんた、身体でそれやってますよな。
 青潟一のエリート中学と人は言うが、大嘘だ。
 とにかく裏を知ること、利用すること、演じること。
 自分のやりたいことはとことんやってみる。
 一年一学期まで、俺は要領が悪すぎた。そんな俺を拾ってくれたのが結城委員長だった。青大附中の利用方法をとことん叩き込んでくれたのが、この人だ。
 ──そうだよ、一年ども。
 ──学校はな、いやいや通うもんじゃない。とことん裏まで利用するもんなんだ。知ってたか。


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