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青潟大学附属シリーズ  高校編


  作者:舞夜じょんぬ

高校一年一学期 14

──どちらにせよ、俺はその轟さんに謝らなくてはならない、それだけだ。
 ──この学校に入ってから、なんでこんなに頭下げなくちゃなんないんだ。
 頭の中に鉛のおもりを付けられたような日々が続く。乙彦は黙って教壇を眺めていた。噂よりもだいぶ穏やかに、初回委員会は進んでいて、いつのまにか二年と三年同士の間で委員長と副委員長、書記まであっさりと決まっていった。当然、知らない名前ばかりだったので興味も持てない。隣の堤さんが後ろの三人に露骨な顔して聞き耳立てている様子が丸見えだった
 一通り事情を聞いた後、斜め後ろの席で清坂美里が言い放った。
「なあんだ、誰のせいでもないじゃないの、そんなこと」
 他の一年男子たちがぽかんとしたまま清坂を見つめる中、規律委員会のトップを選任しているにも関わらず、口は動きつづけていた。
「なんか南雲くんの言い方だと、関崎くんのせいで琴音ちゃんが奨学金を受けられなくなったように聞こえたけど、違うよね。そんな証拠なんてどこにもないじゃない。単に」
「清坂さん、きついねえ」
 南雲の合いの手もわりとクールだ。B組規律委員の東堂も頷いている様子だ。先頭で彼らに背を向けている乙彦には見えないが。。
「要するにこういうことでしょ? ずーっと学年トップだった水口くんが青大附属から出て行っちゃったから、二番の人に奨学金を出すわけにはいかないって、そう学校側が決めただけなんでしょ? なんでそれを関崎くんのせいにするわけ? 理由、わかんないよそんなの」
「そりゃまあそうっすけどねえ、ただタイミングがなあ」
 南雲の言い分は決して乙彦を責めているように聞こえなかった。むしろ、運悪く正論をかざしてしまったゆえに、そのとばっちりが轟琴音に向かったというだけの事実関係を説明したに過ぎない。だから乙彦もそのまま、自分の心を静かに抱え持ったまま背を向けていたのだが。どうして女子はそう単純に決めたがるのだろう。時には複雑なことを言い出したりするくせに。全くもって、理解できない。

 立村から聞いていた「青大附属の委員会活動」とは、
「とにかく先輩が後輩の面倒をきちんと見るというのが慣わしなんだ」
 だそうだが、今のところ規律委員会においてそういった気配は伺えない。オリエンテーションとっぱじめにかの結城穂積先輩の強烈なお迎えを受け、心半分期待と不安もなきにしもあらずだったのだが、あっさりと終わった。特に誰かに声を掛けられるでもない。二年、三年の規律委員たちはわさわさと教室から出て行くものあり、集団で固まっては、
「ねえねえ、これからアイスクリーム食べてかない?」
などとはしゃいでいる声あり。おそらく来週以降に詳しい内容が説明されるのだろう。
 ──規律イコール、水鳥でいう「生活委員」だから、週番とか何かやらされるんだろうな。
 朝一番、生徒玄関で遅刻の取り締まりを行い、抜き打ちで服装・持ち物検査を行い、帰りは職員室前で週番が集まって反省会を行う。確かそういう内容だったはずだ。
 ──となると、自然と上級生になっていくにしたがって、生徒会との接点も増えるか。
 「生活委員」イコール、本来繋がっていくひとりの女子が頭の中に浮かんだ。
 ──水野さん、もうあの学校に慣れただろうか。
 意に染まぬながらも、けなげに微笑んでいた、お下げ髪の水野五月が水鳥中学のセーラー服を纏ったまま、目の前に漂っていた。

「関崎くん、途中まで一緒に帰ろ?」
 水野五月の幻は、おかっぱ髪の女子によって霧散した。声もはるかに張りのある響き、決して誰にも似てない空気を纏っている。まだ教室には一年規律委員が座ったままだというのに、つかつかやってきて目の前に突っ立っているというのは、かなり目立つ。本来規律委員の相棒となるべき東堂も、また南雲もきょとんとしたまま清坂を見つめている。
「いや、別用がある」
「べつよう?」
 乙彦の言葉を繰り返し、清坂はぶんぶんと首を振った。
「だって今日、バイト、ないんでしょ?」
「ないが、他の用事がある」
 ──藤沖と待ち合わせていると言った方がいいのか?
 ほんの数回顔を合わせただけの女子に、なぜ詳しい説明をしなくてはならないのか。あえて最低限の答えだけ交わした。清坂はかなり不本意そうな顔で唇をひんまげている。その背から覗き込むように堤さんが目を光らせている。
 東堂が助け舟を出してくれた。感謝だ。
「あのなあ清坂、まずは元D組同士で一度、クラスのことについてだな、話し合う必要あるんでないか? 南雲、お前もそう思わんか」
「あ、そっか。そうだね」
 あっさり清坂も引いた。乙彦は目で東堂に感謝の意を伝え、素早く立ち上がった。こういう場、特に女子がやたらと入り混じっている場所に長居していても碌なことが起こらないのは経験済みだ。気心の知れた藤沖にまずは会って、奴の話を聞くほうが先決だ。約束は守るべきもの。後出しの誘いを断るのは決して間違っていないはずだ。
「けど、今度少し時間ちょうだいね。話したいことあるから」
「これから規律委員で半年間一緒なわけだから、話す機会はあるはずだろう」
 言い残し、乙彦は南雲あてに一礼し、教室を後にした。南雲もあっさり、
「まあ、気にせんでも、なんとかなるっしょ。お互いこれからもよろしく」
 気持ちよく挨拶を交わしてくれた。
 ──あれだけきつい一言ぶつけておいて、それはないだろう?
 軽いのか、それとも計算高いのか? 乙彦には理解しがたい人間の一人になりそうだった。一度、雅弘と顔を合わせてみたい、そんなことをふと思った。廊下に出たとたん、清坂に聞き忘れていたことを思い出したが、また戻る気にはなれなかった。
 ──立村の現状を、清坂はどう考えているんだろう? あれでいいと思っているのか?
 行きがけの会話で考えるに、やはり、納得はしている様子だったが。

 補習自体は教師曰く「想像以上にみな進んでいる。夏休み前には十分、内部進学生の進度に追いつくことができるからこのまま気を抜かずにがんばれ」とのことだ。外部進学生たちの補習自体、少人数ということもあって、わからないことがあるとすぐにワンツーマンで教えてもらえる。しかも、教え方も教壇の上からではなく、直接机の脇で説明してもらえる。これはメリットが多かった。他の生徒たちの前で自分の弱点をさらけ出さなくてもよいというのは、青大附属の校風に慣れず混乱状態の乙彦にとって気が楽なことだった。
 とはいえ、やはり、補習のない放課後、そして教室には妙な圧迫感が残らず、清清しい。
 乙彦は一年A組の教室に戻った。他にも誰かいそうかと思いきや、いるのは藤沖ひとりだけだった。
「よお」
「遅れてすまない」
「たいしたことじゃない。今日は委員長選任だけだろう。規律はどうだった」
 規律委員長が誰かを聞かれたのか、そう思って委員会用ノートを探す。藤沖は手を振った。
「違う違う。関崎の正直な感想を聞きたい」
「感想、か?」
 どう答えたらいいのか迷うところだが、正直に答えるしかないだろう。
「思ったほどではなかったな」
「思ったほどではないとは、いかに?」
 古風な言い方で藤沖は訊ね返してきた。
「噂に聞いていたように、上級生が下級生を面倒見たがったりする傾向が一切観られなかった。むしろ、中学とほとんど同じ乗りのように思えたが。もちろん委員会初日だからかもしれないが、全く仕事の説明がなかったのが物足りない」
「そうだな、それは言えている。評議委員会も同じだったが、まあこれは特殊だろう。お前も知っている通り、評議委員長は予定通り結城先輩で決まった。あとは先輩の演説だけだ」
「そうか」
 想像がつくだけに、興味深い。
「だが、結城先輩はかなり手ごわい相手であることも確かだ。それはよく覚えておいたほうがいい」
 また藤沖は先輩ぶった口調でもって話を続けた。何度も思うことだがその、目線を上にさせられるような雰囲気が正直、乙彦は苦手だ。
「評議委員会はほとんどが持ち上がりで決まるような感じではあるな。二年、三年に関して言えば俺の知っている先輩たちのほとんどが、どこかの委員長、もしくは生徒会役員を務めているわけだが。だいたい話をすり合わせてみて見えたところによるとだ」
 回りくどい言い方で藤沖なりの分析が始まった。乙彦もとりあえずは黙って拝聴することにした。

「まず、C組に元評議委員が終結してしまったというのは、学校側の意志らしい。中学の轍を踏まぬようにしたいという教師たちの考えが表面化したということだ。これはこの前やたらと麻生先生が語っていたから、わかるな」
 ──単に立村を委員にしたくなかっただけではないのか。
 古川こずえの読みに賛同したくなっていた乙彦は黙っていた。
「その結果、中学時代評議委員を経験したことのない羽飛という男が、元評議委員長を務めた天羽を破って任命された。同時にB組でも番狂わせが起こった」
「清坂のことか」
「その通りだ。やはり本人も気付いていたようだな」
 ──立村が教えたらしいからな。
 やはりしばらく黙っていたほうがよさそうだ。乙彦は頷いた。
「B組の女子評議はなんと、外部から入学してきた奴だった。お前、補習で顔合わせたことあるだろうがかなりこいつは面白い奴だ」
 女子に対して「奴」をつけてしまうのは共感できた可能性が高い。「さん」でもって片付けるのはやはり他人行儀である。しかし乙彦にはその女子の顔が思い浮かばなかった。女子とは数人を覗いて最小限の会話しか交わしていない。興味もない。
「清坂も三年間評議を勤めてきていてそれなりに評価もされてきていたはずだ。だが、女子の間で不評だったのがたまたま露出してしまったということで、微差ではあるが落とされた。もちろんすぐに規律へ切り替えてそこはうまくもぐりこんだが、これはかなりの事件として評議委員会内では受け止められている」
「つまり、それはどういうことなんだ。元評議委員が高校の評議委員会にもぐりこめなかったということが、そんなに大事件になるのか」
「なる」
 きっぱり藤沖は言い切った。
「結城先輩としても、一年のクラス編成をチェックした段階でもう少し元評議が集まるものだと見込んでいたらしいが、この状況だと全く予測が立たないと感じているようすだ。暫くは二年、三年中心で進めていくのでそれはそれで問題ないと思うが、半年ごとに人選が変わる可能性を考えると、なかなか難しいと感じているようだ」
「それはそうだろうな」
「さて本題に入る」
 さっさと入ってほしかったのだが。乙彦は藤沖に促され、窓辺に腰掛けた。戸を開けているせいか、制服の隙間から冷たい風がすうすう入る。ベルトを締めなおしたい気分だった。
 藤沖も隣に腰掛けた。目の前には扉が閉じられたまま。誰もいないと目に伝わる。四角い頭を何度もかきながら、藤沖は声を低くした。
「関崎、後期の評議委員を引き受けてもらいたい」

 ──いきなり何考えてるんだ?
 驚きで声も出ない。尻が窓辺から落ちそうになり慌ててしがみついた。
「そう驚くな」
「驚かないわけがないだろう。まだ一週間しか経っていないんだぞ!」
「いや、半年はあっという間だ」
「まだ規律の流れもつかめていないというのに、まさか、なにをいきなり言い出す?」
「理由はこれから説明する。かなり長くなるから、その辺は覚悟してくれ」
 覚悟も何も、頭の中で発するべき言葉がみつからず、舌がぱきりと固まっている。
 藤沖は意にも介さず、話を進めた。どうもこの冷静な態度がいらいらするのはなぜだろう。

「俺は、青大附高に入ってから、応援団結成を頭においていた」
 前からちらと聞いてはいた。藤沖は両腕を組み、視線を扉上へと向けた。OHPで何か壁に映し出されているような眼差しだった。
「中学時代からそれは考えていたが、いろいろあり生徒会活動で忙殺されてしまった。これは俺の計算違いでもあるが、もちろんそれに後悔はない。それはそれで自分にとってプラスだったとは思う。だが、俺が本当にやりたかったのは、学校や委員会連中と切った張ったの勝負をかけたり、生徒会の女子連中と喧嘩したりすることではない」
 言葉を切った。
「俺は、自分の身体を張って、青大附属全体の意気を高めたかった。つまり、青大附属という学校内、隅から隅まで行き渡るような気迫を漲らせたいと考えていたんだ」
「つまり、それが応援団結成なのか」
 わかるようで、わからない。それならば素直に生徒会へ入るのもひとつだし、現在の評議委員会で全力を尽くすのが一番早いような気もするが。
「委員会にせよ、生徒会にせよ、結局は自分たちの利益が優先される。もしくは教師たちとの戦いかだな。俺はせせこましいところで無用な戦いはしたくない。むしろ、全校一丸となり、運動なり学校祭なり、もしくは勉強なり、それぞれのフィールドで活躍している奴らを関係なく応援し、それが青大附属全体の情熱として燃え盛る、そういう学校を作り上げたいと本気で考えていた。そして、やっとそのチャンスが巡ってきたはずなんだが」
 乙彦を見た。まるで「お前の世話をするために」と言わんばかりに。失礼な言い草だと思うが、あえて言葉には出さないでおく。
「計画はやはり、狂ったというわけだ」
「なぜだ?」
 なんとなく言いたいことはわかるような気がする。首筋から背にかけて風がすり抜けていく。氷のようで冷たい。肩を叩かれ、そのまま手を置かれた。
「俺は、やはり生徒会長の鎧を脱ぐことができなかった、そういうことだ」

 ──生徒会長の鎧だと?
 乙彦が水鳥中学時代、自分の器にそぐわぬと考えてあえて避けたその座。
 憧れがなかったとは言わないけれども、後輩・内川に譲ったことを後悔はしない。
 ただ、生徒会長が重荷だったというのは理解できない。
 重荷というよりも、誇り、武器、そうなるべきものではないのか?
 聞き捨てならぬ。乙彦はぐいと藤沖を見返した。訊ねた。
「生徒会長だったことを、悔いているのか」
「まさか、それはない。充実した日々だった」
 すぐに否定すると、また肩をぽんぽん叩いた。手を離そうとはせず、視線はやはり、目に見えぬ壁のOHP画面の向こう。藤沖の瞳に映るものを読み取ることはできなかった。
「生徒会に関わると自動的に上級生たちとの繋がりが増える。先生たちとも同じことだ。さらに先輩たちが附属高校に持ち上がればそちら方面からも情報が流れてくる。つまり、俺は早い段階で、青大附高生徒会役員としての行動を求められていたということだ。もちろんそれは誇りに思うべきことだろう。だが、俺のやりたいことの邪魔になるのも、また事実だった」
「やりたいことが、その、応援団か」
 別に生徒会をやりながらでもできないことではないように思えるのだが。
「そうだ。中学二年に上がった段階ですぐ立ち上げるつもりだったがその時は生徒会役員だったこともあり身動きが取れず、二年で生徒会長に選出されてからはもう言うも及ばぬといったところだな。幸い先生たちには、生徒会長の立場を利用して話し合いをちょくちょく持って、将来は応援団を立ち上げたいという俺の意志を伝えてある。先輩たちにも同じくだ。おそらく、邪魔をする奴はいないだろう。仕事を除いてはな」
「仕事とは、評議委員会のことか」
「そうだ」
 藤沖は頷いた。手はまだしつこく肩に置かれたままだった。
 ──いいかげん外してもらえぬものか。重いんだが。
 振り払うわけにも行かず、乙彦はくしゃみをして自然と肩を揺らすそぶりをしてみせた。
「あ、悪い」
 やっと気付いたのだろう。手を揺らすようにしながら、藤沖はまた頭をかいた。

「内部生のみで行われたオリエンテーションの初日のことだ。麻生先生に俺ひとりだけ呼び出され、四月以降の一年A組をひっぱっていく上で前期評議委員を務めるよう指示を受けた。この前の麻生先生が話した内容とは矛盾しているとも思うが、実際リーダーがいないとまずいという判断もわからないわけではない。それに前期のみなら、まあなんとかなるだろうということもあり、俺は引き受けた。ついでに外部生の案内役もおおせつかったわけだが、こちらは特に抵抗なく受けた。後悔はない」
「それはどうも」
 ありがたいことだが、やたらとしつこいような気がするのはなぜだろう。
「さっそくクラスメートの顔ぶれを見直し、まず女子でひっぱり役にふさわしい古川を指名した。あいつは下ネタ女王とか呼ばれていて特に委員経験もないが、女子の中では一番話もわかるし男子の間でもなかなか気持ちのいい奴として評価されている」
 ──気持ちのいい奴、なのか?
 疑問は飲みこむ。
「次に他の委員連中をピックアップした。これも、あっさり決定した。だがここで俺ははたと、頭を抱えた」
「何をだ」
 本当に両手で頭を押さえている。藤沖の口調が固いくせに行動がコミカルなのが笑えた。
「これはあくまでも俺が評議委員であればこそ、きっちりとおさまったことだ。だが、もう俺は委員会活動にも生徒会活動にも足を突っ込む気はない。もちろんクラスを支えていくことに異存はないが、本来やるべき応援団の結成をこれからは最優先で考えていきたい」
「いいんじゃないのか。評議をやりながら応援団をやっても」
 また背中に手を置かれる。やたらと触りたがる奴だ。くすぐったい。
「関崎、お前は青大附属特有のこだわりをまだ理解しきっていない」
「それほどでもないと、思うが」
「一度委員活動で頭角をあらわしたら最後、さっそく上級生たちから次期委員長へのお声がかかる。うちの学校は上級生のリンチなどといった意味不明の暴力こそないが、委員活動もしくは生徒会活動という名でのひいきは正々堂々と行われている。もちろん断ることもできるが、この学校で支援を要請することもできなくなるのは痛い」
「支援か」
「そうだ。応援団結成に当たっては、一年のうちに立ち上げるつもりだ。だが下級生がいない。来年まで待つしかない。その間、上級生から下手な反発を食らったら最後だ。つぶされないとも限らない」
 それはわからなくもない。中学時代、陸上部でしごきを受けた経験者の乙彦は頷く。
「無用の喧嘩をふっかけたくはない。むしろ応援団が存在することは上級生たちにとっても望ましいことなのだと、今は訴えているところだ」
「たとえば」
「結城先輩にはすでに了解を得ている。あとは二年にどう話を持っていくかだが、結城先輩が味方ならば十中八九うまくいくだろう。あの人のカリスマ性は想像を絶するものがあるからな」
 ──確かに。
「だがどちらにしても、俺以外で評議を任せられる奴をこれから探さなくてはならない。いくつかの案もないわけではなかったが、天は俺を見放さなかった。つまりだ」
 藤沖はすっと飛び降り、乙彦の前に立った。すべてを語り尽くしたかのような清清しさに満ちている。それが外のグラウンドや中庭ならば素直に受け入れられるものなのだろうが、締め切った教室の中でそんな顔をされても、乙彦は困るだけである。
「関崎、お前こそ、このクラスを率いるにふさわしい人材であることを、ここで宣言したい」
「いや宣言しなくてもいい。褒めてもらうのはありがたい」
 かゆくなりそうな言葉に思わず手首をかく。
「最悪のパターンも思案していたが、関崎が俺の後釜に入ってくれるのならば、なんら問題はない。俺は心おきなく青大附属の応援団結成活動にすべてを費やせる」
「いや、その前に俺は現在、規律委員なんだが。藤沖、お前に勧められたからというのもあるが」
「これもすべて、俺の計画通りだ」
 ぎょっとすることを、藤沖は続けて言い放った。もちろん眼差しは爽やかなまま。
「いきなり外部生がわけのわからない中評議に入って疲れるよりも、まずは前期のうちに青大附属の委員会活動がどういうものかを把握してほしい。その上で後期、俺が降りた時にためらうことなく立候補してほしい。もちろん、前期の段階で俺は関崎に、評議委員会に関してすべてのノウハウを与えるつもりだ。また、お前も規律委員会でいろいろと繋がりを作っておけば今後の評議委員会活動においてプラスになることは請け合いだ」
「ちょっと待ってくれ。まだ規律委員会が終わったばかりだぞ」
「何よりも、関崎の強みは」
 さらに信じがたいことを、藤沖は連呼した。
「お前は女子受けがすこぶるよい。それでいて俺たち男子の間でも評判がよい。青大附属にきて一週間だが、お前の名前、もしくは顔を知らない奴はそういない。水鳥中学から単騎、乗り込んできたナイスガイと誰もが認識している」
「ナイス、ガイってなんだそれは」
 それに「女子受けがよい」とはどういうことだろう? 藤沖、もしや、何か悪いものでも食ったのではないだろうか。酒を飲んだのか、アヘンでもやったのか。乙彦が水鳥中学時代、女子たちから「あのアホシーラカンス」とこけにされていた事実を知らないらしい。
「いいか。今回、評議委員会の人選を考えてみろ。なぜC組の評議が天羽でなくて羽飛に決まったのか? 簡単に言えば、天羽の元評議委員長という経歴よりも、女子受けのよく力も十二分にある羽飛が評価されたからだ。なぜB組の清坂がぽっと出の外部生に評議の座を奪われたのか? あいつも男子たちと馬鹿やるのが好きな奴だが、女子同士は今ひとつしっくりいってないらしい。そのあたりが敗因だ。まだたくさん同じような例はあるが、なんにせよお前の女子受けのよさは、利用しないことはない」
「勘違いしていると思うぞそれは」
 女子だけではない。この学校の男子も、いったい何を言っているかわからない。
 やたら目を輝かせて乙彦を説得しようとする藤沖に、ただぽかんとしたまま、足をぶらつかせるだけだった。




 

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