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〜空露澪さま(「とらぶるめーかーず」「ぶらいとわーるど メジロブライトの末脚」)から
「馬に描かれた館」10万アクセス記念:いただきもの〜
とらぶるめーかーず」 番外編

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   作:空露 澪さま


しかしながら、正直なところ葵のインターネットで知り合ったという男の素性が気に掛かる。 俺はあくまでも元トラブルめーかーずの仲間として、葵に手紙を書く事にした。

 葵、元気にしていますか? 繁です。
 夕べ、康行から電話がかかってきました。何でも、葵がインターネットで知り合った男性とやたら親しくしていて、それが心配だと相談してきました。
 状況的には、康行から聞いた葵の状況と今の俺の状況はそっくりです。こっちはとりあえず、趣味が合う事から友達から始めようと思います。 それで、向こうにその気がありそうなら、本格的に付き合おうと考えています。美人局では? と康行が言うのですが、 美人局だったらわざわざ俺の趣味に特化したようなホームページに訪れるかな? と思うのです。 そういった相手なら、おそらくは恋人募集の掲示板などに出入りしそうに思うのです。
 葵の趣味にぴったり合う相手なら、おそらくは関係を壊したくないと思うのです。だから、最初のうちからいきなりというのは考えにくいと思います。
けれども、もし、出会い系のホームページで知り合ったのなら、犯罪に巻き込まれるかもしれないので、十分警戒して下さい。
 それでなくても、ああいうホームページには女とやる目的の為だけにやって来る男が多いです。 テレクラとかツーショットダイヤルがインターネットに変わったようなものです。 趣味が合って知り合ったのならば、たとえ上手くいけば深い関係になっても……と考えても、 友達という絆は残したいと考えると思うのです。
 俺は前に葵に不倫を止めさせたくて、あの時思わず殴ってしまいましたが、あのオッサンは葵の身体だけが目当てというのが明らかだからだったのです。 ホンマに葵の事が好きだったら、嫁さんにちゃんと詫び入れて、しかるべき慰謝料を払って離婚し、葵と再婚しようという気が起きるはずなのです。 単に、スリルとアバンチュールを求めたに過ぎない、そんな奴には葵を渡せない、と思った結果なのです。
 それと……あれが原因で康行とは婚約を解消したそうですね。俺はてっきり葵と結婚したものだと思っていました。あいつは忙しいなりにも、すごく葵の事を心配しています。
 もし、良かったら俺のメールアドレスを教えますので、メール下さい。名刺を同封しておきます。ちなみに、これは会社のメールアドレスです。 一応、プライベート用があるのですが、かなり趣味に走った恥ずかしいIDを使っていますので内緒です。
 それでは、この辺で失礼します。

 次の日、営業に出てる間に郵便局に立ち寄り、葵当ての手紙を速達で投函した。明日には届くだろう。
 その二日後、俺はHollyhockさんからのメールを受け取った。

 ライアンの息子さん、こんにちは。Hollyhockです。  実は、あなたの事を幼馴染が知り、彼は自分の親友である私の元彼に話しました。 それで、元彼から手紙が届きました。元彼は、私が自分の趣味を通じて知り合ったのなら会ってもいいが、 出会い系のホームページで知り合ったのなら迂闊に会わない方が良いといった内容を書いてきました。 元彼もまた、どうやら素敵な女性に巡り会える予感がしているようで、互いの幸せが掴めれば、と思っています。
 実は、私はまだ顔を見た事もないにもかかわらず、ライアンの息子さんの事を好きになってしまいました。 これって変でしょうか? メールや掲示板、チャットだけのお付き合いなのに、私はライアンの息子さんの人柄に惹かれてしまいました。 京都にお住まいとの事でしたら、ライアンの息子さんさえ宜しければ(今、彼女がいらっしゃらないなら)お付き合い頂けないでしょうか? 宜しくお願いいたします。
 手始めに、スプリングSを京都競馬場のターフビジョンで一緒に観戦しませんか? 2時にシンザン像の前で待っています。携帯の電話番号は080-***-****です。 もし、私が分からなければこの携帯に電話して下さい。その次は、皐月賞をターフビジョンで見て、そしてダービーを東京競馬場で観戦し、メジロブライトの勝利を願います!
 それでは、この辺で失礼いたします。

 これ……!! 俺はメールの内容を読んで椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。
 Hollyhockさん……ふざけてへんよな? 葵が俺を恥をかかせる為に、Hollyhockさんに喋ったのか?  そうだとしたら、いっぺん葵に文句言わんとあかんけどなあ。
 俺がライアンを追っかけて葵を付き合わせて府中へ行ったときは、葵は冷ややかな目で俺を見ていた。 それというのも、パドックから本馬場、十九万人の大観衆でごった返す東京競馬場のスタンドの大移動。 メジロライアンは二着に終わり、我に返ったときには葵が側にいなかったのだ。その後、閉門間近にようやく葵と会えたが、 葵は完全にふてくされていた。その後、二度と葵は競馬に付き合ってくれなくなった。
 あれっ? Hollyhockさんからもう一通メールが来ている。二通目のメールを開封する。

 こんにちは、ご無沙汰しております。星田葵です。
 もう副主任になっているなんてすごいですね。私はあれ以降、実家の病院で事務をしています。しかも、アルバイト(汗)。
 心配している彼の事ですが、私の趣味で出会った人です。ですから、さほど心配はないと思っています。 あなたもどうやらネットで素晴らしい出会いを見つけたようですね。私は実を言えば、既にもう相手の人の事が非常に気になっています。 チャットでトラブルに巻き込まれた時も、私の事をかばって下さいました。私の無知さで自分のプライバシーに触れる事を書き込んでしまった時にはこっそりと削除して下さいました。そういう方なので、信用しても大丈夫です。
 七年前、あなたがメジロライアンに惚れ込んで追っかけまでしたのを冷ややかに見ていたのですが、今の私は七年前のあなたそっくりそのままです。一つだけ違うのは……メジロライアンがメジロブライトに変わった事です。
 お互いに素敵な恋に巡り会えた時、同窓会で笑顔で会えるようになりたいですね。それではこの辺で失礼いたします。

 星田 葵 hollyhock@abcdenet.or.jp

 ちょっと待てよ、Hollyhockさんって葵本人なのか!? 確かに、葵からのメールは仕事用の俺のアドレスに宛てたものだ。 一応、会社でも俺の部屋でもチェック出来るようにしてあるから、このような事態になったのだ。
 本棚から英和辞典を引っ張り出し、hollyhockの意味を調べた。
──hollyhock (名)(植)タチアオイ、ハナアオイ
 もっと早く思い出せば良かった。大学時代、葵の事でブラックジョークを言うときに葵をホリホックと言っていたものだった。
 悪いけど……まだ俺は葵に会えるような気分ではない。三月半ばという時期を理由にこじつけ、Hollyhockさん宛のメールを打ち始める。

 Hollyhockさん、こんばんは。ライアンの息子です。
 折角スプリングSオフを僕の方から計画したにもかかわらず、
 残念ながら僕の実家の手伝いに借り出される事になりました。
 3月一杯は年度末の為に色々と忙しくなるのです。
 それと……せっかくの言葉を頂いたのですが、実は僕には彼女が居ます。
 会社の同僚なのですが、将来的に結婚も考えています。
 Hollyhockさんの想いを受け入れる事が出来ず、申し訳ありません。
 けれども、うちのメジロライアン大事典でも書き込んでおりますように
 桜花賞での阪神競馬場のオフ会を計画しております。
 他にも3、4人ほど参加者が居ますのでご一緒しませんか?
 現時点では男性ばかりですので、多分紅一点になる可能性が高いです。
 詳細に関しては、HPに書いてある通りです。
 それでは、この辺で失礼します。

 送信……と。
 実家の手伝いとか結婚を考えている彼女が居るなんて大嘘だ。婚約者どころか、彼女すら居ないのに。 最初、Hollyhockさんと知り合ったときには上手くすれば彼女にしてあわよくば結婚も……などと考えていたのだが、 彼女が葵だと知った途端、その気がすっかり失せてしまった。
 土曜日は実家の手伝いをするものの、日曜日はどうしても手伝えないと親父には言っている。  出張機会も多い為、東京までの新幹線の回数券を買ってあるのだ。丁度、月曜日からまたもや東京への出張がある。 本来、月曜日の朝一番の新幹線に乗る予定だったのだが、日曜日の朝一番の新幹線に乗る。そして、中山競馬場へ向かい観戦。 それでもって、今回はビジネスホテル代も自分持ちになるのは仕方がないが、一泊してから本社に行って仕事だ。
 スプリングステークスの前日、つまり、土曜日はナルセスポーツの本社倉庫にいた。要するに実家。 会社にばれたらクビになってもおかしくない。作業がしやすいようにトレーナーにスウェットという滅茶苦茶ラフな服装なのだ。靴もスニーカー。絶対に店内には出られない。
 それなのに何でわざわざ手伝うのかと言えば、この時期は俺の母校、スピリチュアル学園中等部及び高等部の 体操服、トレシャツやトレパンはサイズだけをきっちり確認して渡せばいいのだが……ジャージ上下や トレーナーは刺繍して貰う苗字を間違え無いようにしなければならない。入学式でちゃんと新入生に引き渡せるように。 中等部三百二十人分と高等部四十人分。合わせて三百六十人分と一部、サイズ変更になった生徒達の分と。中等部と高等部は共通の体操服なので 女子はあらかじめ大きめのサイズを買えば六年間着続けられる。しかし、男子は俺のように一気に背が伸びる奴も多い。 中等部入学時に着ていたジャージが高等部入学時にはすっかり袖やズボン丈が短くなってしまったので買い換えるというのはよくある話だ。
 サイズの発注は事務員の女の子がしてくれる。一応、今日荷が到着する予定なのだが……。到着したら検品して、 仕分けをすればいいのだ。
 しかし、到着した荷がやたらと多い。同封された納品伝票を見て驚く。中等部新一年用の赤ラインが入った女子用トレシャツMサイズが 二千二百着だと!? いくら学生時代、数学が苦手だった俺でも常識的に考えたら二千二百着などあり得ない数字だ。二百二十着の間違いだろ。
「物流部長! どういう事ですか。今、スピリチュアルの体操服が入荷しましたが、赤ラインの女子のトレシャツのMが二千二百着も入荷したのですよ!」
 物流部長は俺の怒声を聞いて真っ青になっている。
「申し訳ございません! すぐに社長に報告いたします」
 そう言って、物流部長は親父に内線電話をするのだが、謝るときの視線からして、 「いくら社長の息子だとは言っても、手伝いに来ただけだろ。偉そうに言うなボケ」といった態度がありありと見える。
 要するに、オンラインで発注出来る為に入力をミスしたのだろう。しかし、普通のスポーツブランドのウェアなら 取引先に平謝りで不要分を返品する事も出来ようが、スピリチュアルの体操服なんて返品出来るはずがない。 まあ、この辺りのフォローに関しては、社員達で何とかするという事だったので、俺の方は本来の入荷数である二百二十着を仕分けする事になった。 残りの千九百八十着の処理は彼らに任せるしかない。
 ミスをしたのは去年の三月に高校を卒業したばかり……という事は十九歳の女性事務員だった。物流部長の話では、彼女はかなりそそっかしいらしい。 物流部にはもう一人明らかに俺ぐらいの年と思われるお局様候補らしき事務員もいる。男子社員なら大卒もいるのだが、 女子社員は殆ど高卒か短大卒ばかりというのは親父から聞いている。ただ、バブル崩壊後に入社した女子社員は数名の大卒がいるのだが、 彼女達は全員スピ大卒のコネ入社。みんな親父かお袋の友達の娘さんだ。
 実は葵、かなり就職活動に苦しんでいたらしい。俺との結婚話さえ上手くいっていれば、コネで入れる事も可能だったのだ。 しかし、あいつの親の発言を聞いたら絶対に採用する気にはなれねえ。俺の元直属の上司の言葉が蘇る。 「こっちが金を払って礼を言う相手、医者に教師に聖職者。みんなろくな奴がいない」というもの。 小売業の息子として生まれ、就職先は卸売業に身を置く俺の場合、顧客から自分達の給料となる代金を受け取る という考えが根付いている為に、必然的に顧客の立場に立った考え方が出来るのだ。
 一段落が付いたところで、休憩室に入ってタバコでも吸おうと思った。ふと見ると、若い事務員が休憩室の隅で一人泣いている。
「どうしたんや?」
 彼女に声を掛ける。
「あの……社長の息子さんですね。申し訳ありません。私が発注ミスをしたばっかりにご迷惑をおかけしまして……。 実はあの後、物流部長にも、先輩にも散々叱られました……」
「メソメソ泣くなや!」
 俺は彼女を一喝する。驚いて息をのんでいる。
「あのなあ、人間、誰かってミスぐらいするんやぞ。大事なのはミスを指摘されて叱られたら、 二度と同じミスを犯さないようにする事やろ? 一回のミスにクヨクヨしていちいち泣くもんと違う!」
 泣きたいくらいのミスを犯した事、俺だって新人の頃はやった事ある。訪問時間を三十分間違えて、 それこそ取引停止だと先方に言われて課長や係長に大目玉食らった。毎日のようにその会社の 担当者に会いに行っては門前払いを繰り返した挙句、ようやくお許しを得たりもしたのだ。 そんな事があったから、電話では必ず確認事項を復唱するのだ。
「ちょっと……タバコ吸うてもええか?」
 彼女が頷いたのを確認すると、俺は自販機でブラックコーヒーを買う。
「……何がええ? おごるわ」
「え、宜しいのですか?」
「かまへん、早よ決めろ」
 俺はブラックコーヒーの入った紙コップを取って、百円を入れて尋ねた。
「そうしたら……ミルク増量で砂糖なしのアイスコーヒーをお願いします」
 ミルク増量ボタンを押して、ミルク入り砂糖なしのアイスコーヒーのボタンを押した。
「ほらよ」
 俺は彼女の前にミルク入りコーヒーを置いた。
「すみません、有り難うございます」
 俺は椅子に座ってテーブルの灰皿を引き寄せ、タバコを吸い始める。
「覆水盆に返らずって言うやろ? 今更失敗した過去を振り返ってもあかんのや。 犯罪行為は別として、一回ぐらいのミスで落ち込んだり責任逃れするなよ。 何でそうなったかよう考えてみろ。原因を突き止めて、それを次の仕事に生かさなあかんで。 そうやって仕事が出来るようになっていくんやし」
「はい、解りました。コーヒー、有り難うございました。それでは仕事に戻ります」
「ああ、頑張れよ」
 休憩室を出る彼女を目で見送った。
 しかし、このとんでもない大ボケのミスをしでかす彼女の為に、思い出したくもない葵を思い出してしまった。
 何でよりによって、彼女候補として考えていたHollyhockさんなんだ……。
   

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