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〜空露澪さま(「とらぶるめーかーず」「ぶらいとわーるど メジロブライトの末脚」)から
「馬に描かれた館」10万アクセス記念:いただきもの〜
とらぶるめーかーず」 番外編

BACK蘇る過去の記憶 6★NEXT


   作:空露 澪さま


 桜花賞が終わり月曜日から金曜日まで、得意先回りに追われていた。
 土、日としっかり休めるように、きっちりとけりを付けておいた。皐月賞がある時に休日出勤なんて出来るか。
 金曜日、牛丼を食ってマンションに帰り、風呂に入る。上がってから、サザンをBGMに馬券検討。 俺としては恐いのはメジロブライトと未対戦の馬、つまり、弥生賞組や若葉ステークス組。 優先出走権を得たのはランニングゲイル、オースミサンデー、サニーブライアン、シルクライトニング、フジヤマビザンか。 それと、一応スプリングステークスを勝ったビッグサンデーも押さえておこう。 馬券はメジロブライトからこれらの馬に流した馬連という事で……。
 日曜日、俺は新幹線で中山競馬場へやって来た。
 今頃、葵も京都競馬場で……って、何で俺、葵の事を考えているんや?
 俺はもはや葵の事を愛していないはずなのに……。
 俺と葵にとって、残された絆はメジロブライトのファン同士である事しかないはずだ。
 しかしながら、俺は葵にもはや憎しみしか残っていないと言った以上、成瀬繁として星田葵を愛する訳にはいかなかった。  戦いの時が近付いていた。既に、馬券は購入している。パドックでメジロブライトを眺めている時、電話が鳴った。
「もしもし」
──繁? 葵です。
「俺……今中山にいるから会える訳ねえよ」
 あくまでも不愛想に答える俺だ。
──解ってるわよ。あたし、淀に居るもん。今、康行くんも一緒なの。代わろうか?
「代わってくれ」
──もしもし、繁か?
「なんでお前も淀にいるんじゃ」
 数少ない康行の休日。しかしながらあいつに競馬をする趣味はなかったはずだ。
──確かに、俺自身は競馬はせえへんけど、葵がやたらと熱を上げている馬を見たいと思って……。
「メジロブライトか? けど、あいつの場合、馬よりもむしろ騎手で熱を上げてるんじゃねえのか?  俺はメジロライアン産駒って事で応援してるけど」
──どっちにしても、俺は星田病院の次期院長の座は得たものの……俺がホンマに欲しいのは、そんなものと違う。 確かに、あの事は許せへんかったけれども、きっぱりと手を切ってくれただけでも良かったと思っている。 もう一度……繁に宣戦布告を出さんとあかんって事か。
「どういう意味やねん」
 あえて聞いてみる。康行の奴、まだ葵に思いを残しているらしい。
──俺は、葵に幸せになって欲しいと思っている。もう一度やり直そうって言うたけれども…… 葵はまだお前を忘れてへん。不倫したんかって元はと言えば、葵が繁を忘れてへんかったからやぞ。
「宣戦布告されてもなあ、俺はお前と戦争する気はあらへんで。俺はもはや、葵の事を愛してへんのやから、 いくら戦争仕掛けてきたところで無駄や。それにお前やったらあいつの親の希望通りの相手やし問題あらへんやんけ」
──敵前逃亡か? 繁らしくあらへんな。繁の方こそ、葵を忘れてへんのと違うのか?
 葵の奴、康行を当て馬にしてきたな。康行がこんなに俺を挑発してくるような言い方をしてくるなんて。
「馬鹿野郎、そんな訳ねえやろ! 電話と違たらつかみかかってるところやぞ! 気分悪い、切るで」
 俺は携帯を切り、電源もオフにした。
 康行よ、目を覚ませ。星田病院の正当な後継者として評価して貰いたければ、 何も葵じゃなくても、妹の明美ちゃんで良いだろ。確か、今年高校を卒業しているはず。十八歳なんだし、 明美ちゃんと結婚するのも何ら問題はないはずだ。
 皐月賞。スタンドで観戦する。
「ブライト、差せーっ!」
 俺の絶叫は中山競馬場の歓声にかき消され、俺の思いはメジロブライトに届かなかった。 と同時に、末脚も届かず、初めてメジロブライトは連を外す四着に終わってしまった。 勝ったのは、弥生賞で優先出走権を取ったにもかかわらず若葉ステークスに出走してまさかの敗戦を喫し、 それが為に大きく人気を落としていたサニーブライアンだった。二着がシルクライトニングで 三着がフジヤマビザン。馬連は五万円台を叩き出し、大きなどよめきが起こった。
 中山競馬場のゴミを増やし……外れ馬券をゴミ箱に捨てたから……オケラ街道をとぼとぼと歩き、西船橋駅へ。 俺と同じように、豊は何をしているんじゃ、とか、幹夫のバカタレとか思っている奴は多いんじゃないのか?  馬連を的中させて、ウハウハ言っている奴は果たしてどの位いるのだろう?

 数日後の夜、Hollyhockさん……葵だと解っているが、差出人がHollyhockなのであえてHollyhockさんとする……からメールが来たのでチェックする。
 ライアンの息子さん、こんばんは。Hollyhockです。
 皐月賞は淀で観戦したのですが、悔しいですね。
 でも、ダービーは絶対にライアンの悲願を果たしますよ。
 サニーブライアンなんかに負けるな、ブライト!
 オフですが、機会があれば改めてしたいですね。
 それでは、この辺で失礼いたします。

 それで、俺はレスを書く事にした。

 Hollyhockさん、こんばんは。ライアンの息子です。
 確か、Hollyhockさんは以前、俺と牡馬クラシックでオフをしたいと仰っていましたね。
 もし、宜しければダービー前日から一緒に東京へ行って、カラオケでもしませんか?
 5月31日、午後の新幹線で東京へ向かいます。俺は競馬場前で野宿覚悟ですが 女性であるHollyhockさんにそのような真似はさせられませんので、どこかのビジネスホテルに泊まるか 徹夜で喫茶店などで時間つぶしをした方が良いでしょう。
 ただ、今年のダービーの入場券は前売りですね。
 よかったら、一緒に入場券を買っておきましょうか?
 具体的なプランが出来ましたら、またメールをお願いします。
 それでは。

 ダービーの半月前だったか、俺はウインズ京都でダービーの入場券を二枚購入した。
 本来、顔も知らない相手のチケットを代理で購入するほど俺もお人好しではない。 ただ、Hollyhockさんの正体が葵だと知っている以上、反故にされたら葵に文句を言えばいいだけの話だ。
 それに、俺は微かなる下心を葵に対して持っていた。
 もはや愛情を持っていないと言っても……肉体の情は俺の中にしっかりと残っているのだ。
 桜花賞の……俺にとっては残念会だったが、葵にとってはキョウエイマーチが勝った事の祝勝会だった。
 それならば、縁起担ぎでフライングで葵と飲んで一夜を共に過ごせば……。
 最終的に葵が康行を選んだのであれば、このような真似は出来ないものの、 あの時の康行の言い方だとまだ葵が俺に思いを残しているらしい。 それならば、ダービー前夜祭は葵を楽しませつつも俺が楽しませて貰い、当日は二人で楽しめばいいのだと正当化してみたりもする。
 俺が入場券を買ったとHollyhockさんにメールで知らせた次の日、レスが返ってきた。

 ライアンの息子さん、こんばんは。Hollyhockです。
 入場券を買っていただき、有り難うございました。
 200円はオフ当日にお支払いします。
 前夜から当日の過ごし方ですが私なら野宿でも構いません。
 一人でというのならさすがに嫌ですが、ライアンの息子さんがご一緒ならば安心出来ますし、 他にもいらっしゃいますよね。オフに参加される方が。
 それとも、ライアンの息子さんが彼女とご一緒なのでしょうか?
 それならば、お邪魔虫の私は喫茶店で時間を潰します。
 ……この後は、メジロブライトにやたらと熱を上げた内容であった。

 葵、俺がまだ瑠璃と付き合っていると思っているのか?
 そういえば、葵には別れたとは言っていない。Hollyhockさんに対しても、彼女が居ると言ったままだ。 葵に直接言うのは嫌だし、Hollyhockさんにメールで知らせよう。

 Hollyhockさん、こんばんは。ライアンの息子です。
 実は、俺は色々と事情があって彼女と別れました。
 そんな訳で今はHollyhockさんと会っても問題のない立場です。
 もし、一晩中一人寂しく喫茶店で過ごすと仰るのならば、一緒にいていただけませんか?
 カラオケに行くか、飲みに行くかしましょう。
 メジロブライトの勝利を願って、熱く語り合いたいですね。
 宜しければ、新幹線からご一緒しませんか?
 俺は一時頃に京都を出ようと思っています。もし、ご都合が宜しければ、京都駅で待ち合わせをしましょう。

 ……正直なところ、読む者が読んだら下心丸見えである。
 表面上はメジロブライトの話題で盛り上がり、というのを見せているものの、それ以外の面でも 近付きたい、という作戦。それに、俺が今迄知らなかった葵のHollyhockさんとしての一面も垣間見たかった。
 二十一歳の時に一度は諦めた葵との結婚。成瀬繁として星田葵を愛する事は出来なくても、 ライアンの息子がHollyhockさんを愛する事は出来るのではないかという、微かな期待。
 正直なところ、部長にはそろそろ成瀬も身を固めろ、さもなければ出世の道は保障されないぞとせかされている。 けれども就職して三年が過ぎ、学生時代とモテる基準が違うのだというのは何となく見えてきた。
 学生時代は顔とか運動神経とかで評価されていたのが、そんなものは仕事では全く意味をなさない。 テキパキと与えられた業務をこなすのは当たり前、自ら進んで新しい仕事を見つけたり、難題を解決するような能力なども みんなは見ていないようでもしっかり見ているものなのだ。外見では顔以上に必要なのは清潔感で、 俺のように営業をやっていたらなおさら第一印象は大事である。それ以外でも、セクハラなどは言語道断だ。
 ただ、実を言うと俺自身の評価は東京本社に勤務当時の本部長以外には余り良くない。課長、係長、主任と居るのだが 意見が合わないと俺の悪い癖だと自覚しているものの、つい食ってかかってしまう。 正直なところ、同期入社の奴でごますり上手な奴が主任として、しかも事もあろうに京都支社で所属事業部まで俺と同じ繊維事業部だから たまったものではない。顔は学生時代の親友の一人、翔一にも負けないレベルだ。要は、あの外見で口説かれたら大抵の女はころっと来てしまうようなものだ。 しかしながら、頭の良さの方は翔一のような訳にはいかない。外回りの最中に道端に駐車してある営業車の中で居眠りをしているのだって見ている。 ちくるのは男らしくないと思って俺の胸の中に収めているが、部長は勿論、課長、係長に至るまでお世辞の連発で持ち上げるのだが、 自分のこれといった意見を持っていない。
 俺の悪い癖を逆手に取り、傍目からも解るくらいに自分は上司の意見を支持しますという態度を見せる。 そして、俺の評価は下がり、あっちの評価は上がるのだ。しかも、自分の事を棚に上げて俺が女子社員を口説きまくっては寝ているという ありもしないデマを同僚達に流しているのだ。おかげで、今は全く女子社員にはモテないし、俺なんかと結婚したら絶対亭主関白になると言われている。 別に狙いを付けている女子社員がいる訳ではないのでいいようなものの、かなりゆがんだ評価をされているのだ。 隙を見せないようにするものの、わずかな隙を見つけては陰で悪口を言う始末だ。
 とどめに、俺と二人で新規取引先開拓に向けて営業活動をしたところ、会議での俺のプレゼンの方が先方の心を動かしたにもかかわらず、 手柄を横取りされてしまった。悔しさで、その日の夜は一人酒をあおった。
 けれども、見る目のある人物ならば最終的に主任よりも俺を評価してくれるだろう、と信じている。
 残念ながら、主任への昇格は今年四月に先を越されてしまった。けれども、最終的には俺が勝ち組になるようにしてやる。
 そう言えば、昔から周囲との衝突を起こしやすい俺だったが、葵は正当に評価してくれていた。
 それに気付いてプロポーズしても、葵の両親からは正当な評価を受けられず、結果的に葵を失った。
 康行の奴、まさか……葵が俺と別れた事で自分を失い、不倫に走ったと思っているのか?  当て馬としてあんな言い方をしたのだったら、裏を返せば、葵を幸せに出来るのは俺しかいないのだと……。
   

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