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BACK 紅炎があかるすぎる 14(最終章) 
青潟大学附属シリーズ


  作者:舞夜じょんぬ

  14

「では、みなさんながらくお待たせいたしました。本日、水鳥中学学校祭第二部、友情と愛情をテーマといたしました、フォークダンスを開催させていただきます! 今夜の司会進行は私、生徒会副会長の総田幸信が勤めさせていただきます。どうかよろしくお願いします」
 相変わらず軽妙なのりの総田だ。側でマイクがからまないよう会計の川上さんがほどいてひっぱっている。総田のお膝元、二年五組でひゅうひゅうと声がかかる。一年あたりからも「そうだせんぱーい」と甘い声援が飛ぶ。いっちゃなんだが、一部とはのりが全く違う。
「午前中はみなさん、かなり衝撃的な出だしで、みなさん退かれたんじゃないでしょうか。いや、それは生徒会一同もみなおんなじです。まあそのことについては、もうひとりの生徒会副会長に後始末をお願いするとしてもです。ですが、今回の学校祭、自分の意志を自分で表明するというテーマにいつもなにか変わっていっているように感じるもの、これまた事実。ということで、生徒のみなさんにお願いがあります。いえいえ、火には注意しようとか、ファイヤ―が燃えているところに不必要に近づくなとか、そのことについてはすでに、青潟東消防署長様からのお言葉を頂戴してます」
 髪を直す総田。そりゃあたりまえだ。あれだけ走り回ってたら髪が乱れるだろう。
「みなさん、お気づきでしょうが、グラウンドの周りに青いシートが、ところどころ敷かれているのを変だと思った人も多いんじゃないでしょうか。前代未聞です。これは、みなさんの中で、フォークダンスにはちょっと乗り気じゃない、もしくはエキサイトしすぎて脚を折った、いや痛めた方、また友情を高めるためにちょっと語りたい、そんなみなさんのためにご用意したスーパーシートで、ございます。生活委員のみなさまから、本日、ご意見をいただきまして至急用意させていただいたしだいっす」
 僕は、昼間たむろっていた場所を振り返った。しだれ柳の下には、ちゃんと小さめながら、シートとジュースの空き瓶が転がっていた。
 疲れたらあそこにいこう。
「あんまり長くしゃべっていると、僕の方が引きずり降ろされると思うので、さいごに一つだけ。このフォークダンス中に誰かが火のなかに『ファイヤー!』とか叫んで飛び込んだり、原始人の踊りみたく服を脱いで仁王立ちでもしない限り、今年の学校祭は情熱の色、『紅』に染まって大成功を収めた、ということになると思います。水鳥中学生徒会の総力を結集してまとめた学校祭代三日目、みんな、狂おうぜ!」
 わあっと、口笛、歓声の嵐。すでに整列状態は乱れていた。体育委員の数人がもう一度、二列にまとまるよう指示をしていた。いきなりシートに滑り込もうとする人はまだいない。言われたとおり、まずはファイヤーをぐるっと囲み、両手を広げて感覚を取った。僕の斜め前にさっきたんが位置していた。僕の方を見て、小さく頷いた。
「さすが生活委員」
「ええ」
 生徒会役員がたむろするテントの中に、たぶんおとひっちゃんは待機しているのだろう。姿が見えなかった。

 木々の重い陰の合間に、ちらちら覗く紅の炎が空をなめまわしていた。オクラホマミキサーが三回くりかえされ、総田の一方的DJトークが炸裂している。
「じゃあ、次は、スピードを上げていくからな! レコード75回転バージョンでいくぜ」
 前もってスピードを速めた音楽を用意していたのだろう。いきなりステップが混乱し、少しずつ輪から離れていく連中が出てきた。脚をくじいて横になっている奴もいる。体育委員か、保健委員か、誰かがしっぷをもって走り回っていた。輪は思いっきり乱れ、ずんずん半径は狭まっていった。中にはそれを利用して、場所をお目当ての人の近くまで移動しようとする女子の姿も見られた。
 僕はというと、誰でも合わせられるので平気だった。間違って反対側の足を出してしまったという失敗はあったけれども、気にする奴なんていない。たまには男子同士当たってげらげら笑いながら、ぐるぐると火の粉飛びそうなところまで近づいていった。さすがに先生たちが注意する。
「あまり近づくなよ、やけどするぞ!」

 三十分くらい踊りつづけるとさすがに僕も疲れはてた。
 ちょうどしだれ柳の下にはひとり、誰かが坐っている。女子らしい。
 お下げ編みだ。
 たぶん、さっきたんだ。
 ジュース、一杯もらえるかな。
 僕はそっと抜け出した。

 膝を抱えて、さっきたんは空をずっと見上げていた。
 秋の星座がどんなものなのかわからない。僕が見分けられるのはオリオン座とカシオペア座くらいだった。
「さっきたん、疲れてるね」
「うん、ちょっとだけ」
 僕だけというわけではなかった。ほとんどのシートでは人が数人、ねっころがったり、かたまったりしていた。しだれ柳の下は夜になると小さな虫が飛んできて、はらうのにうっとおしかった。
 なんだか風がそよいで落ち着く。離れたくなかった。
 再び『オクラホマミキサー』が流れかけた。でも、最初の二秒くらいでレコードの針が飛んだ。かけなおしているらしい。じりじりと古いレコード特有の雑音が響いていた。
 総田は落ち着いている。ちゃんと合間にトークを入れている。
「ちょっと、レコードものりきっちゃって、しっかりブレークダンスしてるもんね。まーよくあることさ! さあて、またもや二人の世界を作れるBGM、それがオクラホマミキサーってわけだけど、ちょっとマンネリかな? じゃあ、飛び込みで行きますか。体育の授業でこれはできるよね、みんな一気にジェンカでGO! みんな、近くの人の肩を誰でもいいから掴んで、踊っちゃおうぜ!」
 炎が空の真上をほの白く照らした。猛獣の舌のようにゆらぎ、躍り上がった。
「そういえばさ、さっきたん星が好きだったんだよね」
「こうやって星を見上げてる方が好きなのよ」
 さっきたんは輝きの違う星ひとつひとつを指でなぞりながら、僕にいくつかの星座名を教えてくれた。カシオペア座、オリオン座、天の川。
「今は太陽が隠れているけれど、それは太陽の位置の問題であって、突き抜けたら、雲ひとつない青空が広がっているはずなの」
「太陽は今でも、燃えているんだね」
「そうなの。フレアはすべてのものを焼き尽くすくらい、熱く、燃えているの」
 さっきたんは覚えているだろうか。
 小学校五年生の時に、おとひっちゃんと一緒に話した『紅炎』のことを。
 いつか、紅炎に近づくくらいまで宇宙旅行しようとおしゃべりした頃のことを。
「さっきたん、五年生の時さ」
 僕がそこまで言いかけた時、さっきたんはすぐににっこりと微笑んだ。
「宇宙旅行に行こうって」
「覚えていたんだ」
「うん。関崎くんがずっと、太陽系宇宙の話とか、星座の話とかしていた時、佐川くんが一緒に行こうって言ってくれたこと」
 さっきたんは天を見上げていたが、だんだんファイヤーの炎にもどしていった。
「まだ五年生の頃の話だから、忘れているでしょう。佐川くん」
「ううん、覚えてるよ」
 おとひっちゃんのことを思い出させたかった。
「私、星の話が好きになったのは、あの時からなの。関崎くんの話がおもしろくて、いつか佐川くんと一緒に宇宙旅行に行けたら、いいなって、思っていたの。でも、五年生の秋以降、関崎くんも佐川くんも、星の話や太陽系の話をしてくれなくて、淋しかった。だから、自分でいろいろ勉強していたの。いつか、夢が、かなうかな、って思って」
「あの時から?」
 口もとをきゅっと閉じて、肩をすくめて笑った。
「あの頃みたいに、関崎くんも、星や宇宙の話してくれればいいのにね」
 さっきたんの表情は、もう一度僕の方に向いて、ささやき声に代わった。
「佐川くんといつか宇宙旅行、行けるくらい、物知りになりたいから」

 立ち上がって生徒会テントを見渡した。
 なんとなく、膝にこぼれたパン屑のようなもの、かげろうみたいな虫、くっついているような気がした。払い落としたかった。
 トランシーバーを持って走り回っている奴がいないか、もしくは暇を持て余していないか。たいして広くないグラウンドだ。白いワイシャツ姿で様子を見ながらゆっくり歩いている姿を見つけた。
「ほら、関崎くんがいるわ」
 さっきたんも見つけていたようだった。
「さっきたん、結局生徒会室で、何を話したの?」
 そっと聞いた。
「シートのことを委員長に話して、すぐにOKが取れたのよ。急ごうということになって、すぐに生徒会室に向かったの。そうしたら、関崎くんと総田くんが話をしていたから、思い切って言ってみたの。うちの委員長、他に用事があったみたいなので私ひとりで」
「さっきたん、ひとりでか?」
「私を見て二人とも、かなり驚いていたわ。フォークダンス担当は総田くんだと聞いていたし、そのことについてはすぐに話が通じて、指示を出してくれることになったの。でも、関崎くん、元気がなかったから」
 さっきたんは、背を向けてしゃべっているおとひっちゃんを見ながら、ささやいた。
「佐川くんごめんなさい。私、生徒会の選挙に出てほしいって言っちゃったの」
 僕のようすを窺うように、怒っていないかを確かめるようにだった。
 あわせて声音を変えて答えた。
「やっぱり言っちゃったんだ」
「ごめんなさい。でも、こうしないと、関崎くんには伝わらないと思ったの」
 すでにばれてしまってたか! 
 心中、慌ててしまった。
 でも、もう終わってしまったことだった。
「で、おとひっちゃんはどう答えた?」
「びっくりしてたわ。でも、ありがとうって言ってくれたの。その後すぐに総田くんを呼び寄せて何か、話し合いをしていたから、どうなったかはわからないけれど」
 最後の最後の大逆転。
 僕は五メートル先に見えるおとひっちゃんの背中に、つぶやいた。
「気付いてたんだ」
 
 僕が何をたくらんだか、どうしてこういうことをしたかってことだけじゃない。もしかしたら、さっきたんが僕のことを、そういうふうに見ているってことも気付いているのかもしれない。
 でも、もしそうだったら、僕はどうすればいいんだろう。
 もし、さっきたんと付き合いたいと思うのならば、僕はそれなりの言葉で返事をしただろう。
 僕はただ、おとひっちゃんとさっきたんと、五年生の夏と同じように、星の話をしながらファイヤーの炎を見つめたいだけだった。
 それ以上のことなんて、今の僕には、どうでもよかった。
 僕は、どうすればいままでどおり、おとひっちゃんと呼んでいられるのだろう。

 おとひっちゃん、こっちむけよ。
 おとひっちゃん、気付けよ。
 心で念じながらじっと見つめた。
 おとひっちゃん、こっちに来いよ。
 僕の中で激しく声が響いた。

 さっきたんは、小学校五年の時の僕たちに会いたがってるんだ。
 ばかばかしいくらい夢物語の、宇宙旅行をまだ、信じているんだ。
 俺と一緒ということは、分かっている。
 何を言いたいか、わかっている。
 でも、今は、おとひっちゃんと一緒にいたいんだ。

 僕は坐ったまま見つめ返すさっきたんの前にしゃがみこんだ。
「あのさ、さっきたん、ひとつだけ頼んで、いいかな」
「どうしたの?」
 さっきたんはとまどうふうに首をかしげた。音楽がうるさくて聞こえないから、もっと近くに寄った。ちっとも、びっくりしていないようすだった。
「今から俺、おとひっちゃんを呼びたいんだ」
「関崎くん、あそこにいるからきっと、気付くわ」
「ちょっとだけ、おとひっちゃんと話してほしいんだ。さっき生徒会室で話したようなことでもいいし、ほら、今の星の話でもいいんだ。とにかく、おとひっちゃんに、ふつうの顔して、しゃべってほしいんだ」
 わけは言いたくなかった。僕ができる精一杯の、想いを込めた。
 知らず知らず、両膝をついて、ぐっとさっきたんに接近していた。恥ずかしくなんて、なかった。ただ伝えたかった。
「佐川くん、それってどうして?」
「おとひっちゃんを、俺、どうしても」
 深く息を吸った。一度だけ顔を伏せてみた。さっきたんの目をじっと見詰め返した。はつかねずみのような表情のさっきたんは、何かをわかってくれたみたいだった。
「おとひっちゃんを助けたいんだ。どうしても」
 瞳の光が、ちらりと白く掠めたように見えた。きゅっと唇をかみ締め、さっきたんはうなづいた。
「佐川くんがしたいことなら、いいわ。言われたとおりにします」 

 とうとう、おとひっちゃんも足を僕たちのいるしだれ柳の方に向けた。

「いきなりでありますが、予定変更。人数も少なくなっちまったことだし、次は『トロイカ』に突入だ! みなさーん、三列に並んでくださいねん。真中の人だけが前に流されてしまうという、実にジプシー、でも両脇のみなさまは曲が終わるまでずっと一緒にいられるという、ナイス。グットなダンスだね。用意はいいかな? そこの体育委員のみなさんもどうか、ご一緒に。では、トロイカにGO!」
 煙臭く、咳き込みそうなくらい空気が濁った。しかしまだ夜は半ば。総田の咽もまだ元気だ。ジュースを差し入れしてやりたい。
 早いテンポの局にあわせて、忙しそうに人が入れ替わる。この頃になると、列がどうの、学年がどうのとかまっているひまはない。ごった煮状態のグラウンドは、完成と汗と、紅い炎のみで埋め尽くされていた。
 あの中に溶け込んでいる総田だって、これから先の不安を隠している。今夜の総田はスターでいられるけれども、いつまで続くかは誰にもわからない。いつつぶされるか、そんな不安に負けたくないから、必死に走りつづける総田。ほんの一時、祭りの華やぎで先の見えない不安を覆っている。
 予定変更、予定変更、予定変更。
 おとひっちゃん。総田も、根っこのところは一緒なんだから。
 だからおとひっちゃん。

 僕と目が合った時、おとひっちゃんはふたたび、凍りついたように動かなかった。口もとで何かをつぶやいているが、聞こえない。
「おとひっちゃん、こっちにこいよ!」 
 両手を上げて叫んだ。
「疲れただろ、ジュース飲んでいけよ」
 隣のさっきたんに目で合図をし、僕はもう一度叫んだ。
 さすがに人前であれだけ叫ばれると、おとひっちゃんも無視するわけにはいかなかったんだろう。急ぎ早にシートの間を縫ってやってきた。
「雅弘、なんでこんなところにいる?」
「疲れたから、ほら、飲む?」
 さっきたんが紙コップに注いでくれた。そのまま渡してくれた。生ぬるくなったオレンジジュースだった。
「あ、水野さん」
 答えずにさっきたんは小首をかしげた。やわらかい笑みだった。
「さっきは、どうも」
 目を合わされ戸惑い、おとひっちゃんは受け取りながら少しどもった。
「今さ、さっきたんと一緒に、五年生の夏、キャンプファイヤーの時のこと話してたんだ。おとひっちゃんもあの時いただろ、それで、あの時話したこととかいろいろ思い出してて、またおとひっちゃんから星とか銀河系の話、したいねって、言ってたんだ」
 さっきたんは素直に頷いている。嘘はない。僕も続けた。
「ほら、覚えてないかな。やっぱり今日のように、ファイヤーの炎が燃えていて、それをおとひっちゃん見ながら、太陽の周りで燃えているフレアについて説明してくれたよね。ええと、あれなんだっけ、日本語で・・・・・・・・・」
「『紅炎』か?」
 僕があいづちを打つ前に、さっきたんがこっくりとして、そっと指を指した。
「『紅炎』よ。あの時、関崎くんが話してくれたこと、今でも全部、覚えているの」
 横から覗くとさっきたんの瞳には、おとひっちゃんが映っていた。困ったように唇を噛み、どう答えていいのかわからないふうにでも、目はそらせないおとひっちゃんだった。かすかに後ろでさわさわと、しだれ柳が揺れる。しばらく動かないでいたおとひっちゃんはすっと目をファイヤーの向こうに移し、もういちどさっきたんの方に視線を戻した。
「きっと、あんな感じなんだろうな。太陽のそばって」
「うん、熱くてすべてのものを焼き尽くしてしまうって。でもいつか、太陽の近くまで宇宙旅行できたらいいなって、夢があるの。そうなの、五年生の、あの時から」
 さっきたんの声は夜空の煙にくるまれたように、かすかに響いた。
 片手で紙コップを持ったまま、おとひっちゃんは息を呑んで立ちすくんでいた。
 体育すわりで膝を抱えているさっきたんを、じっと見下ろしていた。
 やがて、意を決したように、すうっと指を、ファイヤーに向けた。
「水野さん。それなら、もっと近くまで、行って見ようか」
「近くって?」
 さっきたんには意味が通じなかったようで、おとひっちゃんも戸惑っていた。
「ぎりぎり、火の粉がかからないところまで、近づいてみようか。輪も小さくなっているから、たぶんめだたない」
「いいの? 注意されない?」
「どうせそろそろ火も弱まっている。大丈夫だ。近づけるところまで、行って見よう」
 生徒会副会長にあるまじき危険行為発言。
 僕と目を合わせたさっきたんはにっこり頷いて立ち上がった。
 僕も釣られて立ち上がった。さっきたんに聞かれないようにおとひっちゃんの顔を覗き込んで訊ねた。
「おとひっちゃん、どうしたんだ?」
「なんか、むしょうに、火の近くに行ってみたくなっただけなんだ」
 おとひっちゃんは炎を吸い込もうとする風に深呼吸し、僕に笑いかけた。
 まだ何もなかった頃のおとひっちゃんと、同じ表情だった。
 軽くおとひっちゃんは僕の肩を叩きファイヤーに歩み寄って行った。芋虫のように『ジェンカ』を踊る連中の間を縫って、ファイヤーの影に立った。ちょうど生徒会テント側からは死角で、踊っている連中がすれ違う以外、目立たない場所だった。
 僕はさっきたんとならんで、ついていった。振り返ったおとひっちゃんは、僕とさっきたんに横顔を見せたまま、すうっと炎を見上げた。火の粉が飛びそうなぎりぎりのラインだった。熱くて、汗が流れそうで、ふたりの顔も橙色に染まっていた。すべてのものが焼き尽くされるような情熱。近づけないくらい熱い炎。紅く、黄色く、暖かく、明るかった。
 おとひっちゃんのかすかな声が聞こえた。
「なんか、あの炎がまぶしすぎて、変になってるんだ」
 あの炎か。
 あれが、おとひっちゃんにはまぶしすぎたんか。
 三人、フォークダンスの輪の外で、ずっと見つめた。でも僕には目を焼くようなまぶしさではなく、もっと温かくやわらかく、燃えているように見えた。すべてのものを焼き尽くすのではない。遠くに見える太陽の光、のように。

 おとひっちゃんはひとり、さっきたんに何かを語り始めた。僕には聞き取れなかった。天文関係のさらに詳しい話だった。素直にうんうんと聞いているさっきたん。夢中になって十歳の頃のように語りつづけているおとひっちゃん。
 僕はそっとその場を離れた。
 ひとりで祭りの輝きを見つめた。

「いよいよきましたラストナンバー。これぞまさしく天下のマイムマイム! みんな知ってるよね。あの、誰でも手をつなげば十分踊れるっていう、あのばんざい踊り。これを三発やって今夜は締めようぜ! あ、忘れちゃいけない。ゲルマン人の大移動みたいに、あちこち突進したらこまるよ〜ん! そいじゃ、いくぜ!」

 僕は一歩、二歩、離れて二人を見つめていた。総田の叫び声も限界まで来ている。輪の中にいきなり乱入する奴もいた。踊りも入り乱れていた。シートの上でそれぞれの時を過ごす奴もたくさんいた。その中で、僕はおとひっちゃんとさっきたんが炎と夜空を指差しながら天体について語り合うようすを見守っていた。
 きっとさっきたんは、僕の頼んだことを素直に実行してくれただけなんだろう。わかっている。どこかでまた、僕のたくらんだことがばれてしまうかもしれないってことを。いつか僕も、さっきたんへなんらかの答えをださなくてはならないってことを。おとひっちゃんにいつかは、本当のことをぶちまけなくてはならないってことを。

 さっきたんはおとひっちゃんのことを好きになるかもしれない。
 おとひっちゃんはさっきたんが僕のことをどう思っているか知っているかもしれない。
 僕もさっきたんのことを、おとひっちゃんと同じ感覚で好きになれるかもしれない。
 また僕も、総田の方についていろいろ裏工作するのかもしれない。
 先が見通せないのは、僕もいっしょだ。
 でも、今、この時だけは。

 おとひっちゃん、勝負はまだまだ、これからさ。
 つぶやき、僕は、紅炎を囲む輪の中に飛び込んでいった。

 

───終───

 



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