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青潟大学附属シリーズ中学編


  作者:舞夜じょんぬ



「……だから、やっぱり俺の感じ方は変なんだろうな」
 りっちゃん……本名は立村上総という……と話をすると、いつもこのフレーズが出てくる。そうだよなあ、と思う時もあれば、いやいやりっちゃん考えすぎだよ、と言ってやる時もある。実際俺が返事をするのは後者のことが多い。もしりっちゃんの感じることがおかしいんだったら、俺は毎日変人扱いされてなくてはならないと思う。
「いや、そうは思わないけどよ。りっちゃん、たださ」
 俺はいつも「たださ」「けどさ」とつなげる。
「感じることはおんなじだけど、きっとりっちゃんはそれを深く考えすぎるだけなんだって思うんだ。俺がふうんって思えることを、りっちゃんはそのことについてずっと考えつづけて、それで、いつもの口癖になるんじゃないかってさ」
「いつもの口癖ってなんだよ」
 布団の中で口を尖らせた風につぶやくりっちゃん。ちょっとむかついているに違いない。
「感じ方が変だってこと。大丈夫だよ。たぶん、俺もりっちゃんとおなじだと思うから」
 俺は自分のベットに足を突っ込んだまま、テレビのリモコンを探した。枕の側にある。
「じゃあ、これからゆっくり観ようよ。りっちゃん」
 答えないりっちゃんは、俺の顔を見上げて笑わず、こくっと頷いた。
 ビデオはすでに投入口にセット済み。『組紐のごとく』
 いったいなんつうビデオなんだか。
 俺が手に入れたのはたまたま、小学校時代の友だちが、
「間違って中古ビデオ屋で買ったんだ。けど、こんなのうちに置けねえよ」
 ということで、隠しやすい俺の家に引き取られたというわけだ。題名だけ黒くぬったくられていて、箱もなにも着いていない。どういう内容だか友だちに聞いたのだが、
「見ればわかるって。俺が手放した理由」 
 としか答えが返ってこなかった。そうとう、際どい内容なんだろう。
「りっちゃん、こういうビデオって見たことある?」
「本条先輩と一回だけ」
「そっか。おもしろかったか?」
「本条先輩のレクチャーはよかったけど、画面は見る余裕なかった」
 本条先輩とは、りっちゃんが一番慕っている三年の先輩だ。評議委員長・学年トップ。これだけ観れば優等生そのものなんだが、本性は女ふたりを股にかけて遊び呆けている「青大附中開闢以来の女ったらし」。俺にとっても先輩としては大尊敬してしまうのだが、女性関係については少々疑問を感じたりもする。俺は一筋主義だから。
「御託並べてないでまずは集中集中」
 ふたりで腹ばいになり、電気を消した。
「いざとなったら、ティッシュあるから言ってくれよ」
「こんなところでそんなの使うかよ」
 ため息交じりのりっちゃんが、頬杖つくようなポーズで画面を見つめていた。俺も嫌いなものじゃなし、ゆっくりと動けるよう、うつぶせになり布団にもぐりこんだ。暗い中浮かんできたのは赤っぽい画面だった。思ったよりも画像がきれいだった。テレビドラマみたいだった。
「本当に裏なのかなあ」
「第一、これって、いわゆる、そういうビデオじゃないのかもしれないし」
「期待裏切ったらごめんな」
 言葉はこれで途切れた。やっぱり、そういうビデオだった。
 ただ、そういうビデオにはいろいろあることもよくわかった。三十分間。

 灯りをつけるにも、やはり枕もとだけでいいだろう。俺はビデオを巻き戻しリモコンを枕もとに置いた。今回に関しては一切ティッシュの必要性を感じない。全く身体はなだらかそのもの。いわゆるそういうビデオを見た後の「なんとかしてくれ」的叫びは全く感じない。
「りっちゃん、一言感想を」
「あいつら人間じゃないよ。許せないってこのことだよな」
 ぐいっと俺の方をにらみつけるようにして見つめかえしてきた。りっちゃんの目は近くで見ると大きい。いつも泣いた後のうるんだ瞳で、ちょっと子どもっぽくみえる。もともと身体つきも他の顔パーツも、小ぶりな印象が強いのだけれども、瞳のらんらんとしたところだけが妙に印象深い顔だった。俺はビデオの処分についてしばし考えた。
 ──あれは実用ビデオにならないしなあ。
「りっちゃん、あれ、やるって言ってもいらないだろ」
「あんなの燃やすべきだよ。それ以前に警察に送りつけてなんとかしろって訴える方が先じゃないかって思うんだ。大人ならまあ、その、それでいいと思うよ。そういうこと仕事だってわかってるからさ、けど、あの中にいた人、みな俺とかと同じくらいの人だろ。それもみな、盗み撮りされているようなもんだろ? かわいそうだよ」
 どうやらりっちゃんも、実用性を感じなかったらしい。
「そうだよな。俺も、そう思うな。明日の夜に、写真集ですっきりさせないとこの怒りは収まらないよな」

 たぶん演出もされているんだろうとは思う。でもあれはいくらなんでもひどい。りっちゃんが憤るのも無理はない。
 「組紐のごとく」
 演じている人もいるんだろうが、なぜかみな中学生だった。中学生も実はこういうアダルトビデオの撮影だということを聞かされていなかったらしい。アダルトビデオの場合、最初にお姉さんたちのごあいさつがあるのだが、「組紐のごとく」はまず、中学生たちに監督らしき男性が「学園ドラマの撮影をする。エキストラとして出てほしい」という説明をしている。四人の中学二年という女の子が話を聞いて頷いている。ただ四人だけでそういう状態というのもおかしいとは思うのだが。演出だろう。
 いきなり監督が他の男性に目配せして、彼女たちの両手を後ろに組ませて縛り上げる。時代劇で「お縄にする」という感じだ。お仕置きの場面だと説明しているが、なぜかその子たちは反応をしない。たぶん何も疑っていないに違いない。そのままひとりずつ抱っこして教壇の上に並べられ……。
 りっちゃんが目をまんまるくしたまま見入っているので俺も付き合った。
「どういうことだよ、これ」
「まさか、そういうものか」
 その後のシーンは見るに耐えなかった。俺も決して女子のそういうスケベな部分を見るのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。大好きだ。水着ぽろりとか、スカートがめくれたりとか、裸とか、そういうのを見せてもらえるならもうそりゃあ舞い上がる。しかしこの子たちは違う。あきらかに騙されて、連れて来られているというのが見え見えだ。りっちゃんも途中から目をそらしているのが伺えた。それでもストップボタンを押さないのが俺のスケベな本性ってとこかもしれない。もし、俺の知り合いか誰かがこういうところに連れてこられてたら、と、めったに考えないことまで考えてしまう。なにやら独り言言っているりっちゃんに向い尋ねてみた。
「これ、観て興奮する奴っているのかよ」
「いるんだろう。だから売れているんだよ」
 りっちゃんが冷たい声でつぶやいた。

 こういうビデオを見た後は、友だちと申し合わせてトイレに駆け込み五分くらいひとりになるのが常だった。でもりっちゃんも俺もそういう気分にはなれなかった。りっちゃんはショックで動けないくらいだったらしい。小さな声で、
「最低だよ、あんなの許せないよ」
 つぶやいていた。
「同じことするなら、ちゃんと大人の人で仕事だって人を使えばいいんだ。騙すことなんてないだろう? 本人たちはみな、ふつうのテレビドラマだと思ってきたのに、こんな恥ずかしいことになってしまうなんて思ってないんだろうな」
 俺は台所に下りて飲み物をもらってきた。冷蔵庫に入ったままのジンジャエールを一本。ふたりで分け合って飲もう。ついでにコップも持っていった。
「少し毒気を抜こうか」
「うん、そうだね」 
 ちょこんと布団の真ん中に座り、りっちゃんは俺の注ぐままカップを見つめていた。
 ──いい奴だよな。りっちゃんは。
 二年に上がってからふたつの目標をクリアした俺。
 ひとつは好きな女の子を口説くこと。
 ひとつは友だちになりたかった男の子を口説くこと。
 口説く、たって俺は別にホモとかそういうわけではない。
 ただ一年の頃から気になっていたものを、全部二年の一学期で処理しただけのことだ。
 俺は自分の分、手酌で注いだ後、りっちゃんの向かいに座った。

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