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★ 絶対ありえない三角関係 ★NEXT
〜青潟大学附属シリーズ・二次創作小説〜
芙蓉 雅作
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      ──ゆいのまんこは腐ったまんこ。
 ──ゆいのまんこは腐ったまんこ。

 ──あいつら、絶対に殺してやる。
 ──絶対にいつか、殺してやるんだ。



「難波くんて、霧島さんのことが好きなんでしょ?」
 放課後、評議委員会の退けたあとで、何故か俺はA組の近江から呼びだしをくらっていた。一体なんの用かと思えば、のっけからはっきり言ってくださる。
「俺が、霧島の馬鹿のことをなんだって?」
 べつに、隠さなくてもいいのよ、と言うように、近江はどこか余裕顔で微笑んでいる。
「わたし、修学旅行の時聞いちゃったもの。難波くんの霧島さんに対する愛の告白」
 思わず俺は思いきり顔をしかめた。話にならないとはこのことだと思った。
 誰もいない3−Aの教室。もう十一月なので夕暮れが早い。時期、逢魔ヶ時となるだろう。
「あのさ、なんか勘違いしてるんじゃねえのか。修学旅行の時、俺があいつとしてたことといえば、喧嘩だけだぜ」
「そうなのよねえ。てっきりあたしも、そうとばかり思ってたんだけど」
 近江は窓辺に、夕陽を受けて立っている。顔立ちは美人だし、男みたいなサバサバした性格も、俺は結構好きだ。西月には申しわけないが、天羽が近江を選んだ気持ちはよくわかる。
「難波くん。難波くんてコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズが好きなんでしょ? でもこう言っちゃなんだけど、今回の件に関しては、あたしの方が推理力が上よ」
「……一体、何が言いたい?」
 話の要点がいまひとつ掴めない。もし仮に俺が霧島の馬鹿のことを好きだとして、クールな近江に、そのことがどう関係するというのか。確か近江は、霧島のことがあまり好きではない様子だったと思うが。
「修学旅行の時の、お風呂場前での大騒動、まさか忘れたなんて言わないわよね? あたし、あれって絶対、フロイト的失言だと思ってるのよ」 「フロイト的失言?」
「そうよ」と、近江はゆっくり頷いている。「『また、スカートの中に手、突っ込まれて脱がされるぞ!』って、難波くん言ってたでしょ? あたしにはあれ、こう聞こえたの。『そんなどこの馬の骨ともしれない男が霧島のパンツ脱がせるなら、俺がかわりにそうしたい』って。どう? ちがう?」
 俺は一気に赤面した。夕陽のせいで、おそらくはっきりそうとはわからないだろうが、お日様に感謝だ。
「……それで、もし仮にそうであったとして、だ」と、俺は冷静さを無理に装いながら言った。
「それが近江と一体なんの関係がある?
 近江はあいつのこと、そんな大して好きじゃねえんだろ? 確か、一度言ってたことがあったよな。『あたし、頭悪い人って嫌いなのよ』って。あいつはまさに近江の言う、馬鹿の典型だと俺は思うんだが」
「確かに、そうかもしれないわね」
 俺はA組の、誰の席かもわからん机に腰かけた。近江は窓際に立ったまま、続ける。
「でもあたし、あの話を聞いてから、霧島さんに対する考えが変わったの。彼女が小学生の時に経験したことっていうのは、他の人から見れば確かに『馬鹿』の二文字で終わることなのかもしれない。でもあたし──あの話を聞いてから、霧島さんのことがすっかり好きになってしまったのよ」
 思わず俺はずっこけて、机から転がり落ちそうになった。天羽の好きな関西系の漫才師よろしく。
「なっ……」 「なんだよそれって言いたいんでしょ? それも女同士でって。でもあたし、実は結構霧島さんのこと落とす自信あるの。そこで難波くんに一応宣戦布告しておこうかなって思ったのよ。じゃないとフェアじゃないでしょ?」
 ──フェアじゃないだって?
 俺は近江の真剣な表情に驚いた。どうやら冗談ではなく本気らしい。
「……天羽はそのこと、知ってるのか?」
「もちろんよ」と近江はゆっくり頷いている。「もともとわたしがその手系だって知ってて、彼はあたしとつきあってるの。今回のことも、天羽くんにはすでに報告済みよ」
 俺は頭がくらくらしてきた。天羽といい近江といい、この世の中はどうなってるんだという気がしてくる。
「わたしが最初にはっきりさせておきたいのは」と、近江が窓辺から離れ、三歩ほど俺に近づいてくる。「あたしが霧島さんとそういう関係になったとしても、逆うらみしないでねってことなの。あとから『先につばつけたのは俺だ』とかわめかれたくないし、『あいつらは百合の関係だ』とか、色眼鏡で見られたくないわけ。まあ、あたしはそれでもいいけれど、霧島さんがね」
 ──これ以上、青大附属中で変な噂の的にしたくないってことか。
 どうやらこいつは本当に本気らしいと見てとった俺は、重々しく頷いた。やれるものならやってみろって感じだ。あいつがそう簡単になびくもんかって、そうも思う。 「じゃあ、これで宣戦布告は終了ね。明日から早速、行動に移させてもらうことにするわ。もし興味があるなら、明日の放課後、理科の実験室の掃除用具入れにでも隠れてたら? わたし、そこで霧島さんに告白するつもりだから」

(あーあ。俺も一体こんなところで、何をしているのやら)
 はっきり言って俺も、霧島に負けない大馬鹿かもしれない。放課後、速攻で科学実験室へと戻り、雑巾の蒸れた匂いの立ち込める中、薄く切りとられた三本線のところから、外の様子をうかがっているのだ。誰かにこんなところをもし見られたら、変態だと叫ばれても仕方ないかもしれない。
「ねえ、一体こんなところに呼びだして、なんの用なわけ?」
(うわっ。本当にきやがった)
 俺は、細く切りとられた視界に、霧島が現れるのを見た。その後ろに続いて、近江が入ってくる。理科の実験室には動物の眼球のホルマリン漬けやら人体の骨格標本があったりで、かなり薄気味悪い。告白するだけならもっと場所選べよなって、近江に進言してやりたいくらいだ。
「私が霧島さんを呼びだした理由っていうのは、要するにこれなの」
 近江はインスタントカメラを霧島に手渡すと、やおら制服を脱ぎだしている。一体なんなんだあ!? あいつ。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。近江さん。これ、一体どういうことなわけ?」 流石に霧島の奴も慌て気味だ。実験室に入ってきた時はむくれ顔だったのに、今はその顔が驚きに変わっている。 「どうもこうもないわ。わたし、霧島さんに写真を撮ってほしいのよ。霧島さん、これまでいつも撮られてばかりだったでしょ。だから、一度撮る側にまわってみれば、少しは昔の傷が癒えるかなってそう思うの」
 霧島の奴は絶句している。そりゃそうだろう。これまで敵としか見ていなかった奴が、実は愛してましたって告白しているようなもんだ。チッ、その手できやがったかと舌打ちしたくなりつつも、俺は近江の下着姿に釘づけになった。あらかじめここに隠れていてもいいって言ったってことは、ばっちり見てもOKよっていう、そういう意味だと思った。
「近江さん、気持ちは嬉しいけど、あたし……やっぱりこんなこと、できないよ。第一、こんなところ誰かに見られたら、何言われるかわからないし……」
「じゃあ、場所を変えればいいの?」
 近江は下着姿のまま、霧島に迫っている。水色に、黒のレースが縁取りされたスリップドレス。もしかしてこれがいわゆる勝負下着ってやつなんだろうか。
「えっと……そうじゃなくて……近江さん、あの、手が……」
 近江の奴は霧島の背中に手をまわすと、あいつのことをぎゅっと抱きしめている。これじゃあ、マジで完璧ユリの世界じゃねえか。
「そこのふたり、ちょっと待ったあ!」
 思わず俺は、掃除用具入れから飛び出していた。これ以上放置しておいたら、あやしい世界へまっしぐらだと思った。
「なっ難波! あんたなんだってこんなところにいるのよ!」
 ゴキブリでも見るような目つきで霧島がわめく。
「近江さん、早く制服着てっ! こいつほんっとにマジでどうしようもない、スケベ野郎なんだからっ!」
 近江の奴は、まるで俺が掃除用具入れにいたことなんか知らなかったみたいに、急いで制服を着ている。ハメられた、と俺が初めて気づいたのはこの時だ。
「ちっちがうぞっ! 俺は最初からここに隠れててもいいって言われてたんだ。まさか近江の奴がストリップやりだすなんて……」
 しかし、非常にまずいことに、この時赤いものがタラリと俺の鼻の下をつたっていった。ポタポタとそれが床に雫となって落ちていく。
「さっサイテー! 早くあんた、どっか行きなさいよ! 変態! 馬鹿! もう死ねって感じ!」
 俺はポケットからティッシュをとりだすと、それで慌ててつっぺをかい、霧島に言われるがまま、とっとと実験室を出ていった。まるで、猫に追われる鼠か何かみたいに。


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