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〜青潟大学附属シリーズ・二次創作小説〜
芙蓉 雅作
■──19──■
19
『あんたたち、むっちゃんになんてことするのよ! 早くあっちにいきなさいよ! じゃないと……』
あたしは地面にあった大きな石を引っつかみ、それを思い切り投げた。
『うわ、霧島だ、鬼の霧島参上。みんな逃げる!』
雲の子を散らすように、男子連中が去っていく。あたしはパンツをずり下ろされて、泣きじゃくっているむっちゃんのそばに近寄った。
『あんなエロい連中の言いなりになったりしたら駄目じゃあに。嫌なことは嫌だってはっきり言わなくちゃ』
『だって……』
むちゃんはくまさんのバックプリントのパンツを両手で上げると、少しだけ泣きやんだ。
『みんな、ゆいちゃんのこと悪く言うんだもの。お前は霧島の仲間だからパンツ脱げって……』
あたしは顔を赤くした。あいつら、絶対許せない。あたしのことだけだったらともかく、むっちゃんにこんなことするなんて。
『わかったわ、明日、草壁の奴にあたし、直談判してやるから』
『むつきをいじめるのやめろって? そんなの、俺の知ったことじゃねえよ。おまえらふたり、クラスの中でハブにされてんのは、自分たちに問題があるからだろ。おまえ、知ってるか? 霧島ゆいのまんこは腐ってるって、みんな言ってるぞ』
クラスのガキ大将である草壁に向かって、あたしは唇を噛んだ。一年前にあったことをこいつら、いつまでもねちねちと。
『じゃあ、どうしたらむっちゃんをいじめるのやめてくれるの? あんたたちがむっちゃんをいじめるのをやめてくれるんなら、そのかわりにあたし、なんでもするわ』
『おい、本当かよ』
下品な顔でニヤニヤ笑う草壁。そうだ。あいつは確かに頭がよかった。今にして思えば、最初からそれが目的で、あいつはむっちゃんのことを……。
──ジリリリリリ……。
目覚まし時計を止めると、あたしはベッドの中で身じろぎした。正直いって寒いし、起きたくない。まだこのままだらだらとまどろんでいたい。第一今日、日曜じゃなかったっけ? だったらなんでこんな時間に……。
「そうだ! 今日難波とデートするんだっけ!」
あたしはがばりと起き上がると、薄ら寒い中、着替えをした。今日はちょっとサービスして、身にスカートのワンピースだ。しかも思いっきりロリロリなやつ。あいつがこういうのを好きかどうかは、いまひとつわかんないけど。
少し早めに待ち合わせ場所に着いたあたしは、ホットチョコレートを飲みながら、難波の奴が来るのを待った。一秒遅れるごとに罰金百円って言ってあるから、待ち合わせ時間に遅れるってことはないだろう、たぶん。
あたしは雪の降りだしそうな灰色の空を眺めながら、今朝見た夢のことを思っていた。
──なんだって今ごろ、あんな夢を見たんだろう?
あれからクラス内では放課後、、<おさわり会>なるものが開かれることになった。むっちゃんをいじめないことに対する、交換条件として。ただし、一回のおさわりにつき三人まで。また相手はあたしが指名した男子生徒のみ。
『悪いんだけどさ、霧島。いつもお前、──のことばっかり指名するだろ? もうちょっと他の奴にもさ、さわらせてやってほしいんだ。──とか──とか。あいつらまだ一度もおまえのアソコにさわってないだろ』
はっきりいって、封印したい記憶のせいか、男子の名前までは覚えてない。でもあいつら絶対、いつか全員殺してやりたいって、今もそう思う気持ちに変わりはない。
「もしかして、霧島さん?」
不意に後ろから声がかかってぎくっとした。誰だろうと思って振り返ると、全然知らない男だった。背中にギターケースなんかしょっちゃって……一体どこの誰なのか、さっぱり見当がつかない。 「ほら、小学六年生の時、同級生だった晶野だよ。懐かしいなあ。霧島さんって確か青大附属だったよね。俺は頭悪かったから落ちちゃったけど……高校でもう一度一緒になれたらいいなって思って、今一生懸命勉強してるところなんだ」
──ショウノ?
まるきり顔に覚えのないあたしは、思いきり顔をしかめた。こっちは記憶になくても、多分こいつはおさわりのことを覚えてるんだろう。馴々しく、向かい側の席に腰かけてくる。
「その、僕……小学生の時、ずっと霧島さんのことが好きだったんだ。それで、ずっと忘れられなくて……高校で一緒になれたら、告白しようかな、なんて」
ショウノとかいう奴は、照れくさそうに頭をかいている。いかにもお坊ちゃまといった顔立ちで、眼鏡をかけている。ちょっとだけ雰囲気的に、更科日記に似ていないこともない。 「悪いけどあたし、全然記憶にないわ」
(あの馬鹿、なんだってこんな時に遅刻してくるのよ!)
あたしは腕時計を忌々しげに眺めた。するとショウノの奴は席から立ち上がり、
「ごめんね。誰かと待ち合わせ? ただ僕、ずっと霧島さんに伝えたかったんだ。あの時のこと……君は全部忘れたいだろうけど、僕にとっては大切な思い出だって。じゃあ、いつかまたどこかで会えるといいね」
ギターケースを背負うショウノの奴のことを、あたしは思いきり引きとめた。ぐいとコートの裾をひっぱって。
「待ってよ! 何ひとりで一方的に片付けるわけ? 全然意味わかんないわよ。第一、あんたが誰かも全然思いだせないし……せめてもうちょっとわかるように話したらどうなの?」
ショウノくんはもう一度椅子に座り、ギターケースをテーブルの横に立てかけた。
「その、なんていうか……改めて話するのも恥ずかしいんだけど、霧島さん、あの時……ほとんど毎日のように僕のこと、指名してくれたてただろ? だからもしかして霧島さんも僕のこと…転なんてひとりで勝手に勘違いしててさ。他の、なかなか指名されない連中がやっかんで、変な野次飛ばしたりもしてたけど、あいつらだってみんなそうだよ。ただ単に自分が指名されないから僻んでさ、君のこと悪く言ったり、わざと傷つけるようなことしたり……あれは全部、好意の裏返しみたいなものだったんだ。もちろん君にはそんなこと言っても、なにを今さらって感じだよね。でもそんな中でも僕は、本当に霧島さんのことが好きだったんだ」
ショウノ、しょうの、晶野……ぱっとあたしの記憶に明かりが灯る。そうだ、晶野淋(しょうのあきら)! 確かにあたし、こいつのことをよく指名していたかもしれない。
「思い出した?」
どことなく、気品のある顔で微笑む晶野。確かこいつ、小学生の時はのび太くんみたいに弱っちい感じのする奴じゃなかったっけ? たったの三年かそこらでこんなに変わるなんて……おそるべし、第二次性徴期って感じだ。
「おまえ、こいつになんか用か?」
難波、十五分遅れて登場。なんでかよくわかんないけど、金剛仁王像のような殺気がある。晶野くんも、なぜか口許を引きしめて、険しい表情になっている。
「じゃあまたね、ゆいちゃん」
晶野くんはギターケースを背中にしょうと、どことなく余裕顔で去っていった。まるで、こいつが相手なら勝てる、とでも顔に書いてあるみたいだった。
「なんだ、あいつ、いけすかねえな。おまえの知り合いか?」
「知りあいっていうかまあ……小学生の時の同級生よ」
「まさか、五六年の時の、なんて言わねえだろうな?」
さっきまで晶野くんが座っていた席に腰掛ける難波。手にはコーヒーとショコラフレンチ。いらいらしたようにがっついている。
「そんなことよりあんた、十五分遅刻よ。あたし言ったわよね? 一秒遅れるごとに罰金百円って。一体どうしてくれんのよ」
「おまえ、速攻で計算できる? 電卓とか使わないでさ。そしたら全額払ってやるよ」
ええっと……一秒ごとに百円ってことは、五秒で五百円。十秒で千円だから……。
指を使って計算しだしたあたしのことを、難波の奴は思いきり笑った。
「ブブーッ! タイムアウト。そのかわり晩メシとボーリング奢ってやるからさ。それでチャラってことでいいだろ?」
なんとなく馬鹿にされてるような気がして、あたしは頬をふくらませてむくれた。こいつといい、晶野くんといい、男っていうのはどいつもこいつもよくわかんない。こんな、頭悪くておさわりなんていういかがわしい(?)過去を持つあたしのことが、本当に好きだなんて。