BACK★ 絶対ありえない三角関係 ★最終章
〜青潟大学附属シリーズ・二次創作小説〜
芙蓉 雅作
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ずっと、固く封印したみたいに、開いたことのなかった小学校時代のアルバムを、あたしは開いた。本当は、ずっと怖かった。おそろしい憎悪の念が、アルバムを開くのと同時に、噴きだしてきてしまいそうで……でも今、黒いマジックを片手に、あたしはおそるおそる、その水色のアルバムを開いていた。
「草壁善成、クサカベよしなる……うえっ。あたしこんな奴に、股の間さわらせてたわけ?」
きゅっきゅっと、鼻の下あたりに、サリーちゃんのパパみたいな髭をつけ加えてやる。はは、ざまあみろって感じ。ええっと晶野くんはと……。
あ、いたいた。やっぱりのび太くんみたいな、いまひとつパッとしない気の弱そうな顔立ち。これがギターケースしょったそこそこいけてる兄ちゃんに変身するんだから、歳月ってちょっぴり怖い。
『ゆいちゃん、本当にいいの? 僕……なんだかよくわかんないけど、すごくいい気持ち。ゆいちゃんってなんだか、女神さまみたいだ』
晶野くんは初めておさわりした時、指が震えていた。それに、毎回とても大切なものに触るように、あたしの足の間を撫でた。他の馬鹿男子どもといえば、鼻の穴ふくらませて、乱暴にそうするだけだったけど、唯一彼だけは違ったのだ。やがて彼は掃除当番やら何やら、なんでも下僕のようにあたしの言うことを聞くようになった。女子たちの陰謀により、むっちゃんがあたしから引き離され、クラスに味方が誰もいない中で、唯一晶野くんだけは……。
──どうしてわたし、こんな大切なこと、忘れていたんだろう?
『霧島さんって、本当に嫌よね。そばに寄ったらやらしい匂いが移るような感じ』
『睦月さんをいじめないことに対する交換条件だって話だけど、本当かしら? 本当はただ単に自分が男子たちにおさわりされたいだけなんじゃないの?』
『言えてる。実際には男子たちだって、霧島さんのこと、馬鹿にしてるだけなのにね。睦月さん、これからわたしたちのグループに入りなさいよ。あんないやらしい人と、仲良くすることなんかないわ』
『う……うん』
そうしてむっちゃんは、あたしから離れていった。でも晶野くんは、玄関のところで泣きじゃくってたあたしに向かって、こう言ったのだ。
『大丈夫だよ、ゆいちゃん。もうこうなったら、誰にもゆいちゃんの大切なところ、触らせることないよ。もうじき卒業だし、青大附属へいったら、このことを知ってる奴なんて誰もいない。そしたら大手を振って堂々と、ゆいちゃんはゆいちゃんらしくしてればいいんだよ』
──こうして、男子たちから影で鬼畜と囁かれる、新生霧島ゆいは誕生した。
でもあたし、小学校時代の嫌な記憶を全部封印したくて、晶野くんのことまで忘れてしまってたんだ。ごめんね、晶野くん。そして、ありがとう。
「あれ? なあに? これ……」
ぽろっと、透明な雫が、アルバムの上に落ちる。カタルシス、とでもいうんだろうか? 晶野くんのことを思いだすことによって何故か、あのひどい思い出の群れが、少しはましな形にまとまって見える。昔みたいに、よくわけのわからないどす黒い渦みたいな感情ではなく。
『僕、霧島さんのこと、ずっと好きだったんだ』
──男の子ってやっぱり変。普通あんな、男子の全員に股ぐらを触らせてたような女の子、好きになる? それとも彼の眼には男子どものハレンチな行為に耐える聖女として、あたしのことが映っていたんだろうか?
「晶野くん、高校で一緒のクラスになれるといいね」
思わず、ぽつりと呟いた。そしたら難波の奴は、一体どんな顔をするだろう?
紡ぎは、クリスマスの夜、天羽くんと桂歌丸の独演会にいくと言っていた。正直いって、女同士で変な話かもしれないけど、それならそれでちょっぴり妬ける。
あたしはきのう学校の図書館で借りた、サガンの『悲しみよ、こんにちは』とコナン・ドイルのシャーロックホームズシリーズとを手にとり、ぱらぱらとめくった。これでも唯一国語だけは、得意なほうなのだ。
──まずはなんといっても、いい女になるために、教養を身につけなくっちゃね。
本当に本気でそう思う。難波も、晶野くんも紡も、あたしなんかのどこがいいのか、いまひとつ理解に苦しむけど……それでもこんなあたしのことを「いい」と言ってくれるのだから、それなりにいいところがあるのだろう。だから、これからもみんなに愛される霧島ゆいであるために、ますます磨きをかけてパワーアップしたいって、そんなふうにあたしは思うのだ。
─終─
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